大きな鳥ムネ肉を1枚丸ごとを揚げ、キャベツと一緒に食べる「山賊焼」(長野県松本市で撮影)

 「ご当地グルメによる町おこしに本気で取り組むならば、まずは地域の食文化に埋め込まれた小規模な市場を確立すること」

 そう語る山本氏が注目しているご当地グルメが、長野県松本市の「山賊焼」です。

 山賊焼は、松本市の新たな郷土食と目されている料理です。鶏のモモやムネの一枚肉に、ニンニク風味のタレを付け、片栗粉をまぶして油で揚げたものです。一説によると「山賊は物を取り上げる(鶏揚げる)」からその名が付いたとも言われています。

 「単発的なブームに終わり、地域経済の永続的な振興にはつながらない」というご当地グルメの落とし穴を回避するため、山賊焼の普及団体が採っている徹底した地域密着戦略とはどのようなものか。國學院大學経済学部准教授の山本健太氏に聞きます。

それは“無茶振り”から始まった

──そもそも、なぜ山賊焼きがご当地グルメになったのでしょうか。

山本健太氏。國學院大學 経済学部 准教授。博士(理学)。東北大学大学院理学研究科博士課程修了。九州国際大学特任助教、同助教、同准教授を経て現職。専門は、経済地理学、都市地理学。研究テーマは都市型文化産業の集積構造に関する研究。特にアニメ産業、プラモデル産業などのカルチャー産業の産業集積の研究を行っている地理学の専門家。

山本健太氏(以下、敬称略) 山賊焼を販売する飲食店やホテルなどの団体関係者で構成された「松本市山賊焼応援団」が、山賊焼の普及に向けたPR活動を展開しています。この応援団の成り立ちは、2004年にさかのぼります。

 松本市内の飲食店団体である松本食堂事業協同組合の古参メンバーが突然、同会の青年部に「何か面白いことをやれ」と言い渡したそうです。こんな無茶振りを受けて青年部が目を付けたのが、山賊焼でした。

 当時は単なる居酒屋メニューに過ぎなかった山賊焼をご当地グルメに育てることで、地域を活性化しようと考えたんです。この活動は、松本市の事業として採択されたことにより本格化し、飲食店以外の業種を巻き込みながら拡大。2012年に現在の松本市山賊焼応援団へと発展しました。