FON作戦は、あくまでも航行自由原則を維持するためのものであり、中国とフィリピンやベトナムなど南シナ海沿岸諸国との間の領域紛争への介入ではない。オバマ大統領がゴーサインを出す場合、とりわけこの点を強調するはずである。したがって、アメリカ軍艦や軍用機は、挑発的と見られる動きを封殺しつつ12カイリ内領域を通過することになる。

 これにより、アメリカ軍としても「中国が人工島を建設して勝手に領土領海を手にすることに対して警告を発した」という“実績”を一応示すことができる。また、オバマ政権としても、あくまで「航行自由原則の維持のため」という形を取りつつも「同盟国を見捨てたわけではない」というアリバイを作ったことになる。

 しかし、中国側から見れば、たとえアメリカ軍艦が中国の“領海”内水域を通過しても、人工島に対して軍事的威嚇などを実施しなければ、それは「世界の全ての船舶が享有している、他国の領海における無害通航権」の行使にすぎない。

 そのように中国当局が「無害通航権の行使」と公式に解釈してしまえば、いくらアメリカ側がFONパトロールによって「人工島を認めない」という意思を示し続けても、中国に対しては暖簾に腕押しである。

 中国が巨額の資金をつぎ込んで建設した7つの人工島には、すでに3カ所もの3000メートル級軍用滑走路と多数の軍事関連施設、それに巨大灯台に代表される非軍事的“国際公共施設”が数多く建設されている(本コラム2015年9月24日「人工島に軍用滑走路出現、南シナ海が中国の手中に」)。このような既成事実の塊である人工島を排除することは、FONパトロールをはじめとする外交的手段では、もはやほぼ完全に手遅れである。アメリカ政府はもとよりアメリカ軍自身もそのことを明確に認識しているはずである。

 つまり、南シナ海の軍事バランスが圧倒的に中国優位に突き進んでいるというのが紛れもない現実なのである。