米国のバラク・オバマ大統領にとって、6月22日から27日の週は大統領2期目における最高の週であったと米国で報道されている。つまり、オバマケアに関する最高裁判決の勝利と同性婚を最高裁が合法としたことでオバマ氏は勝利の喜びに満たされたというのである。
しかし、私はこの1週間ボストンに滞在し、違和感を感じ続けていた。その違和感は大統領の価値観に対する違和感であり、懸案事項の優先順位に対する違和感である。
具体的に言えば、同性婚の問題よりも深刻な人種問題の解決が優先されるべきだし、サイバー空間での活動(以下サイバー戦と記述する*1)など様々な分野で脅威になっている中国に対し宥和的で毅然とした態度を示さないオバマ政権に対する違和感である。
時あたかも23・24日に米中の戦略・経済対話(S&ED: Strategic & Economic Dialogue)が開催された。S&EDでは米国側から中国のサイバー戦と南シナ海の人工島建設などに対する非難がなされたが、中国はその非難を軽くあしらい、その不法な行動を改める気配はない。
「サイバー9・11を許している」
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、6月24日、このS&EDにぶつけるかのように鋭い論説「オバマのサイバー・メルトダウン」を発表した。
この論説は、米国人事管理局(OPM)から最低でも420万件の個人情報が中国のハッカーにより窃取された事件を題材に記述されている。
WSJの論説は、中国のサイバー作戦に対するオバマ政権の対処の甘さを厳しく批判し、「ロシアやイスラム国(IS)が海外で進撃する間に、オバマ政権は米国に対するサイバー9・11を許している」とまで記述した。中国によるサイバー戦を9・11ニューヨーク・同時多発テロになぞらえているのである。
WSJが指摘するように、中国のサイバー戦は執拗であり、オバマ政権が過去何度も言葉だけで中国に警告してきたが全く効果がない、実効性がないのである。効果がないから「オバマのサイバー・メルトダウン」と表現するのである。
中国のサイバー戦は、米中関係における最も重要な懸案の1つであり、絶対に解決しなければいけないものであるという認識が必要である。一方で、中国の米国に対する執拗なサイバー戦の深刻さを米国のマスコミや米国人自身が認識し始めたことは好ましい傾向である。
我が国は、米国に対する中国によるサイバー作戦を対岸の火事として傍観するわけにはいかない。その深刻さを認識し、我が国自身も国家ぐるみで万全の態勢を確立しなければいけない。
*1=マスコミなどではサイバー攻撃という言葉が多用されているが、米陸軍においてはサイバー空間における作戦はoffensive cyberspace operations、defensive cyberspace operations、information network operations の3つに区分される。マスコミが使うサイバー攻撃という語句はoffensive operationsとinformation network operationsの2つを含む。3つの作戦を総称してcyberspace operationという。字句通りに訳すと「サイバー空間作戦」になるが、やや冗長であるので、本稿においては「サイバー戦」と記述する。