米国統合参謀本部は、7月1日に「国家軍事戦略(NMS: National Military Strategy)」を4年ぶりに発表した。
今回のNMS自体は、米国の安全保障を研究している者にとっては驚くような内容ではないが、バラク・オバマ政権下における最後のNMSであると同時に10月に交代するマーティン・デンプシー統合参謀本部議長の最後の報告書である点に特色がある。
本稿においては、最近1年半ばかりに立て続けに発表された「4年ごとの国防計画の見直し(QDR: Quadrennial Defense Review)」(2014年3月発表)、「国家安全保障戦略(NSS: National Security Strategy)」(2015年1月発表)を改めて読み返しつつ、オバマ政権が6年半を経て到達した安全保障に関する政策や戦略について考えてみる。
そしてこの作業は必然的に過去の政権特にジョージ・W・ブッシュ政権の安全保障戦略に触れることであり、将来の米国の戦略を予測することでもある。
オバマ大統領は現在2期目の半ばを過ぎ、残り18か月の任期を残すのみとなった。米国の各種メディアでは既に次期大統領選挙に関する報道が盛んになっていて、オバマ政権のレームダック化が心配されたが、なかなかどうしてオバマ大統領は予想に反して健闘している。
2014年11月の中間選挙で大敗して以降、開き直ったかのように2期にわたる大統領職の総仕上げであるレガシー(遺産)作りに集中し、キューバとの国交回復、イラン核協議における歴史的合意などの成果を達成している。
野党である共和党の多くの議員はオバマ大統領のレガシーに反対しているが、米国のマスコミは“Obama's Big Summer”という表現を使い6月から7月にかけてのオバマ大統領のレガシー作りの成果に驚いている。
前任者であるジョージ・W・ブッシュ前大統領は、イラク戦争をはじめとする対テロ戦争におけるあまりにも傲慢で独善的な単独主義(unilateralism)や覇権主義を国内外から批判された。米国は時に過剰な干渉主義により世界の平和に悪影響を及ぼすが、ブッシュ氏の覇権主義はその典型であった。
米国内での厭戦気分の高まりを受けたオバマ大統領は、ブッシュ氏の過度な対外的干渉を批判し、「紛争は一義的に紛争当事国や関係者が解決すべきである」という立場を採用した。
IS(イスラム国)への対処において典型的であるが、米国の軍事力、特に地上戦力(陸軍や海兵隊)を紛争解決のために極力使用しないこと、単独主義を排除し「同盟国およびパートナー国とのグローバルなネットワークの強化」を強調する多国間主義(multilateralism)を採用している。