さらに、信号そのものの故障や不具合の多さも深刻だ。この国の鉄道にはさまざまな国の信号保安設備が導入されており、ヤンゴン~タウングー間の38駅についても、22駅が中国製、6駅がインド製(現在工事中)、2駅がドイツ製、5駅が英国製、日本製と韓国製、およびミャンマー製が1駅ずつとなっているが、ほとんどが正常に稼働していない。

 せっかく各国が設置した信号保安設備は、ほとんどの駅でほこりをかぶっているか、カギ付きの専用の小屋に収められたまま眠っており、列車を検知する装置も作動しない。

 駅から次の駅へと電話で連絡を取り合って列車の位置を確認し、通行許可証を手渡して走らせている背景には、こんな実態があるのだ。

 こんな牧歌的なやり方でなんとかなっている理由は、レールが大きく上下に波打つほど老朽化しており、維持管理も不十分で列車が時速60km程度までしかスピードが出せない上、上り下り合わせてもこの区間は日に10数本しか運行していないためである。

 しかし、今後、「ヤンゴン・マンダレー鉄道整備事業」によってヤンゴン~マンダレー間のレールや地盤が改良されれば、列車の走行速度が上がり、運行本数も増えるだろう。当然、適切な安全対策と効率的な列車管理を行うために、信号システムの近代化が必要になる。

 そこで近藤さんたちは、この事業の詳細設計調査(D/D)の一環として、鉄道信号の現状を確認し、アップデートに必要なコストを算出すべく、1駅ずつ回って調査しているのだ。

 チームは総勢10人。電力、信号、通信、建築などの各専門家らが参加している。信号システムは専門が細かく分かれているため、1人で複数の役割を兼ねることが難しく、それぞれの技術者が手分けして調べた結果を持ち寄り整合性を取るのだという。

信号の博物館

 チョウェブエ駅から4駅北には、古都タウングーの街が広がる。この国の歴史上、最大規模の領土を誇ったタウングー王朝の都が14世紀から18世紀まで置かれていた地だ。

 今なお残る旧城壁やお堀に周囲を囲まれているためか、こじんまりとした端正な印象の街なみに静謐な空気が満ちている。

タウングー駅の信号司令室で専用電話を使い列車の位置を確認する駅員
電力状況について駅員に聞き取りを行う日本コンサルタンツの和木浩さん(左)