テニスラケットで通行確認?
雨期明けの日差しが思い切りよく照り付ける正午近くのチョウェブエ駅。
駅舎の中から電話が鳴る音がかすかに聞こえてきたと思ったら、男性が1人出てきて線路の少し先の方まで小走りで駆けて行った。手に何か持っている。ちょうど、ガットが張られていないテニスラケットのような形をした木の枠だ。
興味をそそられ、そっと近付いてみる。目を凝らして見ると、輪の先端部分に何か白いものが付いている。「列車の通行許可証がゴムでくくりつけられているのが分かりますか」と、電気技術開発(JEC)国際部の近藤寿彦主任技師が教えてくれた。
この駅と次の駅の間に先行列車が走行したり停車したりしていないことを確認し、この駅を通過して良いことを示す“通行手形”のようなものだという。
しばらくすると、汽笛と共に下りの急行列車が近付いてきた。男性が、枠の柄の部分をつかんで線路脇から列車の方にぐいっと差し出す。その動きにつられて列車を見ると、先頭車両から車掌らしき男性が身体を乗り出している。
すれ違う瞬間、車掌が男性から差し出された輪の部分にひょいっと腕を通して木枠ごと受け取り、許可証を外してから、列車が駅舎の前あたりを通過するタイミングで木枠だけそっと投げて寄越した。