壁一面に貼られた企業名。そこにあるのは超有名企業ばかり。「あと1人を残すのみです」。国際教養大学(AIU)で学生の就職を担当している職員は開口一番、うれしそうに話す。2014年の10月早々、来春の卒業生の就職先がほとんど決まってしまったという。壁に掲げられたのはその企業名である。
学生の半数以上が首都圏など都市部から
AIUは今年で開校10周年。秋田県にある新しい大学が、いまや日本で最も有名な大学の1つになった。
開校当初は地元秋田出身の学生が多かったものの、年々他県、それも有名大学がひしめく首都圏からAIUを受験に来る学生が増えている。今年の1年生は首都圏などから来ている学生が半数以上を占めるまでになったという。
この人気の秘密はもちろん、グローバル人材を養成しようという学校の目的にあるが、それだけではない。日本の古い大学が改革をしたくてもしがらみが多すぎてできないことを、新設の強みを生かして徹底的に取り入れたという面も大きい。
今年10月、文部科学省は大学の国際競争力を向上させるための「スーパーグローバル大学創生支援」事業を創設、全国で37大学を選び、徹底した大学改革と国際化の推進を目指す。
世界ランキング100位以内を目指すタイプAの大学(総合大学)には東京大学や京都大学、早稲田大学など13校が選ばれ、グローバル化をけん引するタイプBの大学としてAIUや国際基督教大学(ICU)など24大学が選ばれている。
学生の就職支援をするディスコの夏井丈俊社長が語っているように、この10年間実績を積み上げてきたAIUはタイプBに選ばれて当然とも言えるが、「実は選んでもらうために大学の企画サイドは結構大変だったのです」(小野正則・AIU事務局次長)という。
何が大変だったと言えば、AIUが日本の中では先を行き過ぎているために、さらに上を目指す取り組みを文科省に示さなければならなかったことだ。こうした大学の登場は日本の未来にとってとても明るい材料と言えるだろう。
鈴木典比古学長にAIUの10年間の足跡と成功の秘密を聞いた。
学生による授業評価が教員に緊張感を与える
川嶋 国際教養大学(AIU)が創立からわずか10年で、これほどまでの人気を集めるようになった要因はどこにあるとお考えですか。
鈴木 AIUのプログラムにはいくつかの特徴があります。まずはすべての授業を英語で行うこと。もうひとつは、原則として3年次に全員が留学することです。留学したら向こうの学生と机を並べて授業を受け、単位を取らないといけません。
留学するための条件は、TOEFL550以上、GPAという成績評価平均点は2.50以上。これはなかなかキツイんですが、クリアしないと留学できないし、留学しないと卒業できませんから、必然的に真剣に勉強することになる。
それに留学すればとにかくいろんな経験をしますし、何より現地の学生と机を並べて授業を受けることの刺激は大きい。留学した学生が、AIUの教育はまだまだレベルを上げないとダメだと、学長宛てにメールをよこしたりするんです。