前職で米国のベイエリア(サンフランシスコ~シリコンバレー)に駐在していたとき、スタンフォード大学で初の理系出身学長となったジョン・ヘネシーさんにインタビューした。彼が第10代の学長に就任したのは2000年のことだからもう14年も前になるが、ヘネシー学長は今でも現役である。
なぜスタンフォード大学のヘネシー学長に触れたかと言うと、名古屋で学習塾を経営する坪田信貴さんのお話を聞いていて、教育者として共通するものを感じたからだ。
ヘネシーさんは学長に就任するとすぐに大胆な改革に取り組んだ。その内容はここで紹介できないが、重要な点は、鉄は熱いうちに打てと、新入生に思い切って大学の経営資源を投入したことである。
新入生8人に対して1人の割合で教員をつけ、大学でまた卒業後に何をしたいのかを徹底して聞き、それを実現するためのプログラムを一緒に考えて実行に移す。ただ漠然と大学の授業を受けさせるのではなく、はっきりとした目的意識を持たせることが重要だというわけである。
一方、坪田さんは同じような教育方法を学習塾に取り入れて大きな成果を上げている。その1つのモデルケースであり集大成が1冊の本にまとめられている。『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA)である。
表題にあるのは本当の話である。「本当に?」と疑問に思うかもしれないが、本を読めばなるほどと納得するに違いない。つまりは、子供に目的意識を持たせ、そしてそれを実行するためのプログラムを真剣に作れば“奇跡”は起こり得るということである。
実は坪田さん自身が、高校時代に落ちこぼれた。ほぼビリに近い状態まで落ち込む。しかし、彼の高校に海外から2人の女子生徒が留学してきたことで人生が大きく変わった。そして、彼自身にも“奇跡”が起きる。
“奇跡”と書いたが実際には奇跡でも何でもなく、当たり前のことを当たり前にしただけの話だった。だから、誰にでも同じようなことができるはずだと坪田さんは考えた。そして自ら始めた学習塾でその手法を子供たちに伝授したところ、めきめきと力をつける子供たちが増え、学習塾(青藍義塾)は大人気となった。
坪田さんにその“奇跡”の手法や教育論などについて聞いた。日頃は自分のことはめったに話さないとのことだったが、かなり突っ込んで聞かせてもらった。
根拠のない決めつけ=ラベリングが可能性の芽を摘む
川嶋 今回この本を読んで、父親として反省する点が多々ありました(笑)
坪田 僕はこれまで1000人以上の生徒を個別指導で見てきて、親御さんの方が悩んでいると思っているんです。例えば高校3年の子に「夢はある?」って聞くと、「ない!」って言うんですよ、8割までが。
でも幼稚園や小学校のときはあったと言うんですね。年を重ねて中学生くらいになると夢がなくなっていく。
川嶋 それはどうしてなんですか。
坪田 親ってみんな、子供が小さなうちはちょっと数字が覚えられたり歩くのが早かったりすると、この子天才なんじゃないかとか、才能があるんじゃないかとか思ったりするんです。