北米報知 2014年6月12日25号

 最低賃金の時給15ドルへの引き上げがシアトル市で決定。法案可決翌日の3日にはエド・マレー市長が署名に臨み、「収入格差に取り組み、中級階級の再建のための大きな一歩だ」と語った。

 最低賃金引き上げを選挙活動の柱とし、当選を果たした社会主義者のクシャマ・サワント市議らを中心に議論を巻き起こしてきた問題に1つの答えが出た。最終的な賃金引き上げの達成は7年後だが、現在から61%増という数字は、特に小ビジネスを営むマイノリティ社会に大きな影響を与えそうだ。

かなめ居酒屋のトッド・クニユキさん

 「これだけの引き上げが起きれば、小ビジネスへの打撃は大きくなります」と語るのは、インターナショナル・ディストリクトの日本街で居酒屋かなめを営むトッド・クニユキさんだ。

 クニユキさんは、レストラン経営では人件費が一番費用がかかると強調。引き上げられる人件費を払うには商品価格を上げるしか方法はないと話す。

 同じく日本街で雑貨屋兼ギャラリーの「KOBO at Higo」を営むビンコ・チョング・ビスビーさんは、「もしお店の回転が遅かったら、現行の週7日の営業日を一日減らして6日にするかもしれない」と話し、営業日を調整する必要があるとした。

KOBOのビンコ・チョング・ビスビーさん

 人員削減で人件費を削減する方法もあるが、長年ともに仕事をしてきた従業員たちは家族のような存在という。

 また時給15ドルとなった場合、高校生ら若年層、スキルのない人の雇用機会に影響が出て、すべての働き手が思い通りに利益を得られるとは考え難いとも続けた。

 元会計士で地元日本食レストランとの関係が深い玉井純夫さんは、シアトル以外で食事をする人が増えると予測している。賃金引き上げは人件費のみでなく、物価をはじめとした食材費にも影響し、レストランの値上げにつながると説明する。

 特に日本食レストランでは鮮魚など値段の高い食材を使うことが多いため、他のレストランに比べ影響は大きいと語る。現在はシアトル市外でも日本食レストランは数多く存在し、値段の差異はシアトルで食事をする人の数に影響すると語る。

 ビスビーさんも同様の懸念をみせる。シアトルを去り、市外でビジネスを行う人が増え、新たに事業を始めることが難しくなる可能性は高い。人件費の支払いで余裕のある大きなビジネスが残る傾向が強くなるかもしれない。

労働者を救う賃金引き上げ

 日本街からこのような声が上がるなか、5月14日付のシアトル・タイムズ紙では最低時給の引き上げには74%が賛同していると報じた。