かつてマルクスは『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』でこう書いた。「ヘーゲルはどこかで『すべての世界史上の大事件と大人物はいわば二度現れる』と言っている。ただ彼はこう付け加えるのを忘れた。『一度目は悲劇として、二度目は茶番として』と」。現在進行中のウクライナ「革命」は、茶番の度が越して大惨事の兆候すら出てきているのではないだろうか。
ヤヌコビッチ氏は2004年のオレンジ革命で敗れたものの、2010年の大統領選挙でリベンジを果たした。今回、政権の座を追われ、ヤヌコビッチ氏は再び煮え湯を飲まされたことになる。
「オレンジ革命と比較されることが多い今回の政変だが、決定的に違う点がある」と上野俊彦上智大学教授は指摘する。ソ連崩壊後、多文化共生国家であるウクライナの政治は安定しなかったが、これまで大統領選であれ議会選であれ、選挙結果には従うという民主主義のルールが守られてきた。しかし今回、それが破られてしまったという点だ。
2004年のオレンジ革命のときにはユーシェンコという主役がいたが、今回の仕掛け人は西ウクライナの民族主義者や過激な右派セクターという議会外の存在である。そのため、「革命」の主役が見当たらず、「野合政権」との印象は拭えない。
政権転覆を図ったとされる米国の危機管理能力への疑問の声も高まっている。国際政治学者のイアン・ブレマー氏は、「米国の主な目的が、ウクライナで起きている暴動と大国間の緊張を最小限に抑えることだとしたら、重大なミスを重ねている」と指摘する。2013年11月にウクライナへの経済支援を渋った上に、2014年2月に成立した政治危機の解決のための合意を軽視し、西側寄りの暫定政権への支持を表明した米国政府の対応が、地政学的リスクを極端に高める原因になったと見ているのだ。
「エネルギー同盟」の関係にある欧州主要国とロシア
しかし、この問題で一番頭を痛めているのは、ロシアとの関係が深い欧州だ。
2013年のEUの対ロ貿易は、米国の対ロ貿易の約10倍である。ロシアにとってもEUは貿易の半分を占める重要な地域である。