日本の中堅企業は、海外市場での事業展開や投資に強い関心があると考えられている。その背景の1つとなっているのは、日本の相対的競争力の低下や人口減少の進行だ。
今回の調査では、成長に向けた大きな課題の1つとして国内需要の低迷を挙げた回答者の割合が75%に達した。産業革新機構の西口氏によると、これは規模にかかわらず全ての日本企業が直面する課題だという。「国内市場だけに注力していればよい時代はもう終わりを告げた」と同氏は指摘する。
中堅企業の多くは依然として国内市場に注力
こうした状況を考えれば、中堅企業は海外市場で機会を追求する理由に事欠かない。しかし、海外展開を実行に移している企業はきわめて少ないのが現状だ。
今回の調査対象となった中堅企業の半数以上は、国内市場のみで事業を展開しており、海外投資を行う企業の割合は42%にとどまっている。海外投資を行う企業の62%は、長期的な成長見通しの向上を理由の1つとして挙げている(表4.1参照)。
「国内市場での売り上げ低下の補填」を理由として挙げた回答者も、半数近くに上っている。
中堅企業が海外投資について態度を決めかねている理由の1つは、現在海外で一定規模以上の事業を行っている割合が非常に少ないことだ。
今回の調査結果によると、海外市場で総収益の10%以上を上げている中堅企業は、全体の26%にとどまっている(表4.2参照)。小規模中堅企業(年間売上高10億~100億円)では、その割合が15%とさらに低い。一方、新興中堅企業(創業10年以下)は例外的な存在で、収益の10%以上を海外市場で確保する割合が38%に上っている。
輸出企業の割合が最も多かったのは製造業だ。同セクターの日本企業が、特に精密機械分野やニッチ市場で競争力を確立していることを考えれば、この結果は驚くに値しない。
その一例として挙げられるのが前述のサンエースだ。同社では売上高の約90%を海外市場から得ており、海外拠点の従業員も全体の約90%に上る。また同社は伝統的な意味での本社機能を持っておらず、海外拠点が非中央集権的な組織体制の下で大きな権限を持って事業を行っている。
しかし、同社が本拠地を海外に移転する予定は今のところない。同社で代表取締役会長兼CEOを務める佐々木亮氏によると、日本をビジネスの本拠地としているのには確固とした理由があるという。
「日本には、品質・技術に対する要求が過剰なほどに高い、世界最高レベルの顧客がいる。国内市場が売り上げに占める割合は限られているが、日本の顧客に鍛えられることで、技術や応用力の幅を広げられるのは大きい。こうして得た能力は、海外市場できわめて重要な競争力の源泉になっている」と同氏は語る。
一方、ヘルスケア・製薬・バイオテクノロジー企業では、10%以上の収益を海外で上げる割合が8%と非常に少ない。この理由の1つとして考えられるのは、人口構成の変化(特に高齢者人口の更なる増加)を背景に、同業界が国内市場に大きな魅力を感じていることだ。
アウトソーシングと国内重視の事業体制
海外投資を行う割合が、70%と最も多いのは大規模中堅企業だ(表4.3参照)。一方、小規模中堅企業では、その割合が27%にとどまっている。海外投資がもたらすチャレンジの大きさは、多くの小規模企業が消極姿勢を取る原因になっているようだ。
表4.2と4.3を比較すると、収益源というよりも投資先として海外市場を考える中堅企業の割合が多いことが分かる。この理由の1つとして挙げられるのは、中堅企業の多く(半数には満たないものの)が、近年の円安傾向を活用して海外調達を行っていることだ。