Summary:浦野氏によると、日本のエネルギー戦略は需要側の視点を欠いてきた。短期的には一部企業が海外移転を余儀なくされる恐れもあるが、多くの企業(特に中小企業)においては、産業のトップランナーに倣ってエネルギーの効率化を図る余地がまだあるという。再生可能エネルギーに関しては、中長期的には可能性があるものの、現状の効率では産業全体での採用という意味で現実味を欠いている。そのため、原発というオプションの判断に関して、慎重かつ柔軟な姿勢が求められているという

二チレイ 取締役会長
浦野光人

 浦野氏は、経済同友会 低炭素社会づくり委員会およびエネルギー政策PTで委員長を務めている。2012年3月1日、エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)は、日本の産業界が直面するエネルギー課題及び、長期的な競争力維持へ向けたエネルギー体制のあり方について浦野氏から話を聞いた。

EIU: 産業界の観点から見たエネルギーに関するプライオリティーとは? また、日本のエネルギー政策はどの程度、産業ニーズに配慮してきたのでしょうか?

浦野光人(MU): 産業界に共通したエネルギーのプライオリティーがあるわけではありません。しかし、4つの視点というのは外せないと思います。安定供給、経済効率性、それから地球環境との整合性、そして安全であること。

 エネルギー問題というのは非常に長期的で、先を見据えた詳細な議論が必要です。そして非常に複雑です。単に経済や自然科学だけの問題でもなく政治もからみます。そしてあらゆる人々の生活や経済成長もからむということで非常に複雑な問題です。しかしながら、日本のエネルギー政策というのは、極めて単純化したモデルで作っていたのではないかと思います。

 産業界からすると一番の懸念材料は、供給側のロジックだけでエネルギー政策を組み立てていたのではないかということです。需要側という視点がほとんどないエネルギー政策だったような気がします。我々民間企業だったら、企業が無知なために何か問題が起これば、その企業はつぶれるだけの話ですよね。国家が無知だったら、国全体がおかしくなるわけです。

 日本のエネルギー戦略は、簡単にいうと3つの視点を欠いていたと思います。1つは需要側の視点、それから、エネルギーの安全保障という意味での地政学的な視点。3つ目は、産業構造が変わらないということを前提でエネルギー政策を作っていますけど、本当にそれで良いのかという問いに関連します。

 例えばですが製造業はなくならないにしても、製造業の儲けは知識ベースで、海外に今までのノウハウやパテントを売るような商売になるかもしれません。そうなればエネルギーは、今の6~7割で足りるかもしれない。日本のエネルギー政策は、今の延長線上だけで単純化して考えられていますよね。

EIU: 日本の産業界は懸念される電力不足に対して、短期的にはどのような対応プランを用意していますか? 国が提示するプランとは?

MU: 去年は、ピーク時の電力消費量を下げるということが最大の課題でした。それには、一応成功したわけです。ブラックアウトはなかったわけですから。しかし外部コストが色々と発生するなど、企業が様々な形で犠牲を払いました。それは、非常に一時的という形でならできることかもしれない。つまり、東京電力管内で今年も同じことをやるといわれたら、もう勘弁してよと企業は言いたいですよね。