こんな魚屋は初めて見た。
〒203-0044
東京都東久留米市柳窪2丁目8-16
4月のとある土曜日の午後。店の前に約100台収容できる専用の駐車場があって、5人の警備員が車の誘導に飛び回っている。
多摩湖や狭山湖にほど近い新青梅街道沿いに、その魚屋は店を構えていた。建物は一見すると普通のスーパーマーケットのようだ。だが、スーパーの魚屋とはスケールが違う。こちらは1軒の建物が丸ごと魚屋なのだ。
魚を買いに来た客の車で、駐車場はぎっしりと埋まっている。それでも次から次へと車がやって来て、駐車場に入りきれない車の列ができる。
4月の週末でこの状態なのだから、年末は推して知るべしである。年越し用の料理やおせちの魚を買い求める客が殺到して、道路沿いに数珠つなぎの車の行列ができ、駐車場に入るまで1時間以上も待たされるという。
その店とは、東京都東久留米市にある「角上魚類(かくじょうぎょるい)小平店」。近郊で圧倒的な知名度と集客力を誇る「行列ができる」魚屋である。
全国の魚が獲れたての姿で並ぶ
店内に入ると、売り場の広さと客の熱気にまた目を見張る。売り場の面積は300坪近くはあるだろうか。1店舗の魚屋としては破格の広さである。
ひときわ賑わっているのが、対面販売コーナーだ。北海道から九州まで日本全国の港で揚がった魚介類が「むき出し」の状態で売られている。海に戻したらそのまま泳ぎ出しそうな魚が、敷き詰められた氷の上にずらりと並んでいる様は壮観だ。
そのコーナーで、赤いユニホームを着た店員の威勢のいい声が響き渡る。「いらっしゃい、いらっしゃい。今日はメバルがいいよ。メバルがっ」
多くの客は、魚を買う時に「サバを3枚におろしてくれます?」「このタイを煮物にしたいんですけど、切り分けてもらえないかしら」などと店員に注文し、調理・加工をしてもらう。
コーナーの奥には調理台があって、店員が注文通りに魚をさばいていく。さばいた魚はビニール袋に入れられて、「はい、お待たせしました」と客に手渡される。
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若い夫婦が珍しい魚を目の前にして、店員に訊ねる。「この『じょんじょろ』っていう魚はどうやって食べるんですか」。店員が「頭を取って、煮つけにするとおいしいですよ。柳川にしてもいいですね」と答える。「へえ、どんな味なんですか」と会話が続く。
いつの頃からか、魚屋は、切り分けてパックした魚を売る場所になってしまった。しかし、かつての魚屋は「今日は何がおいしいの?」「この魚はどうやって食べるの?」「鍋にしたいんだけどいい魚ある?」などと、店員と会話しながら買い物をする場所だった。この店は、そういった在りし日の魚屋のスタイルである。