春。剪定した切り口から樹液が落ちブドウが目覚める

 ブドウの生育は、すこぶる順調だった。

 細心の注意を払って大事に育てたこともある。雨が降らない日が続けば水やりを行い、雑草が生い茂れば土壌の水分を奪い合うことがないようにこまめに抜いた。

 抜いても抜いても畑を一巡する頃になると元通りに青々とした雑草が目の前に広がっている。それをまた抜く。

 いかに小淵沢が高原とはいえ、夏の最高気温は軽く30度を超える。1日作業が終わると体重は数キロ減っている毎日だった。その甲斐あってか、木枯らしが吹く頃になるとブドウは1年目とは思えないほど、しっかりとした太さの幹になり、天に向かって堂々と伸びていた。

 翌2008年の春、まだ開墾してない約1ヘクタールの野焼きを行い、重機で造成して石を拾い支柱を建て・・・などとやっているところに嬉しいニュースが飛び込んできた。

萌芽。4月下旬から5月上旬、八ヶ岳の麓の芽吹きが始まる

 それは、構造改革特区法改正案が国会を通過したというものだった。いわゆる「ワイン特区」と呼ばれるものだ。実は、改正案の件はすでに昨年より耳にしていて、国会通過をいまや遅しと心待ちにしていたのだ。

 従来、酒造免許の取得には年間生産量が最低6キロリットルないと許可が下りないのだが、この改正案ではワイン特区であれば生産量が2キロリットルでいいというものだ。

 改正案が通れば、酒造免許取得のハードルが一気に下がる。つまり、2キロリットルであれば予定より早い段階でワインの製造が可能なのだ。

 事実、これまでの6キロリットルでは新設ワイナリーの場合、自前のブドウの収穫だけで賄うとなるとかなりの年月がかかってしまうため、他所から買ってクリアーするケースが多々見受けられた。それが本意ではないワイナリーもあっただろう。

 無論、免許がいつまでも取れないとワイナリーの経営にも大きな痛手となる。

 そんな理由で生産量が2キロリットルと従来の3分の1で免許が下りるワイン特区に私は多いに期待していたのだ。