民主党代表・小沢一郎の辞任表明に伴い、政局の混迷度は一段と深まった。こうした中、自民党が国会議員の「世襲」をめぐって揺れている。自民党選対副委員長・菅義偉(すが・よしひで)が次期衆院選のマニフェスト(政権公約)に世襲候補の立候補制限を盛り込む考えを示すと、党内の世襲議員らは猛反発。それでも菅は、世襲制限に賛同する同志を集め、議連を結成しようと準備を進める。なぜ菅は世襲制限に踏み切ろうとしているのか。その狙いは、「郵政選挙の再現」とも指摘されている。(敬称略)

 まず、2005年9月11日の前回衆院選を振り返ってみたい。郵政民営化は是か非か。解散・総選挙の争点はこの1点に絞られた。郵政民営化に反対して自民党を離党した「造反組」の選挙区に、当時の首相・小泉純一郎は対立候補となる「刺客」を容赦なく送りこんだ。

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 刺客第1号は、衆院兵庫6区から東京10区に国替えした小池百合子。国民新党代表代行・亀井静香の地盤である広島6区には、ライブドア社長(当時)の堀江貴文を擁立した(堀江は無所属で出馬)。こうした「刺客候補VS郵政造反組」の対決に、ワイドショーを先頭にマスコミが熱狂。有権者の関心は、否応にも郵政対決に集中した。

 選挙結果は自民党の圧勝。勝因は小泉人気だけでなく、郵政民営化を争点に「刺客VS造反組」にメディアの関心を引きつけた選挙戦術にもあった。選挙期間中、民主党は蚊帳の外に置かれ、埋没してしまった。多くの同党候補者は存在感を発揮できず、都市部を中心に惨敗を喫した。

菅の「狙い」、暴露した古賀誠

 「菅さんは、郵政選挙と同じ手法を『世襲』でやろうとしている」。こうぽつりと筆者に漏らしたのは、自民党若手議員。当初はどういう意味かよく分からなかったが、自民党選対委員長の古賀誠が5月7日、BS放送の番組収録で次のように分かりやすく語ってくれた。

 「世襲についてはいろんな議論があるが、与党内で対立軸をつくるということは極めて選挙に大事なことだ。党内で議論することでメディアに関心を深めてもらえる。何回か選挙をやった中での1つの教訓だ。特にその象徴的なのが前回の郵政だ。あそこまでドラマチックではないが、国民は世襲にすごい関心がある。党内議論の焦点にしたい。わたしも今のままでいいとは思っていない一人だから、しっかり議論したらいい」

 古賀は与党内に「対立軸」をつくり、メディアの関心を集める重要性を強調した上で、前回の郵政選挙を象徴的な「教訓」と指摘した。さらに、「党内論争が始まったら、メディアも民主党との戦いより(党内論争のほうが)面白くなる。(世襲問題に)関心が移っていくということは1つの戦法だ」とまで語ったのだ。

 世襲制限は次期衆院選のためのメディア対策であり、古賀は「郵政選挙再現」の狙いをあっさりとしゃべってしまったのだ。「古賀さんはしゃべるタイミングが早過ぎる」(自民党関係者)と、一部では古賀氏の発言を非難する声も聞かれる。

 今なお、次期衆院選は自民党にとって厳しいと古賀は見ているようだ。世襲をめぐる党内論争が活発化すれば、古賀は結果として選挙に有利に働くと見ており、どんどん議論してほしいと各議員に促しているのだ。民主党が掲げる「政権交代」という簡単明瞭なキャッチフレーズに対抗するためにも、世襲制限で党内論争を巻き起こし、自民党にもっと世論の関心を集めたいと考えているのだ。

国民の政治参加、阻止する世襲

 さてここで、なぜ政治家の世襲は問題になるかを考えてみよう。世襲議員とは、父母や祖父母ら親族が国会議員を務め、選挙区の「地盤、看板(知名度)、かばん(選挙資金)」の「3バン」を引き継いだ議員を指す。

 その中にも、有能な人物は少なくない。とはいえ、自民党衆院議員302人のうち世襲議員は100人を超え、3分の1以上を占める。麻生政権の閣僚17人のうち、実に首相・麻生太郎を含む11人が世襲なのだ。一方、民主党の世襲議員は20人に満たず、自民党がいかに多いか分かるだろう。