いとう・けん 作曲家=指揮者 東京大学教授(作曲・指揮・情報詩学研究室/生物統計・生命倫理研究室/情報基礎論研究室)東京大学ゲノムAI生命倫理研究コア統括。ベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督。グローバルAI倫理コンソーシアム理事。
1965年東京生まれ。松村禎三らに作曲、橘常定にチェロと指揮を師事。私立武蔵高等学校中学校を経て東京大学理学部物理学科卒業、同大学院理学系研究科修士、総合文化研究科博士課程修了。内外の作曲委嘱のほか松平頼則「モノオペラ源氏物語」、故ジョン・ケージ遺作「OCEAN」などの世界初演、NHKニュース、ETV「芸術劇場」などメディアの音楽、地上波テレビ番組「新・題名のない音楽会」音楽監督などフリーランスで活動。2000年より東京大学大学院情報学環助教授、同准教授を経て現職。慶應義塾大学、東京藝術大学などでも後進の指導に当たる。
若くして作曲・演奏で国際的評価を受けるが、並行して数理物理や脳の認知生理に基づく音楽の科学的基礎研究の欠如をL.ノーノ、養老孟司、J.ピアース、M.マシューズ、猪瀬博、村上陽一郎、G.リゲティ、L.ベリオ各氏らから指摘され、これに着手。P.ブーレーズ、P.エトヴェーシュらと「スペクトラル・コンダクティング」指揮法メソッドを創成、K.シュトックハウゼンならびにバイロイト祝祭劇場とは脳認知に基づく時空間表現手法を体系化し、それらに基づく創作活動のほか、新ベートーヴェン全集、新モーツァルト全集の録音など演奏・録音活動も推進している。
並行して2006年、地下鉄サリン事件の実行犯となった物理学科の同級生、豊田亨氏の真実を描いた『さよなら、サイレント・ネイビー 地下鉄に乗った同級生』(集英社)で第4回開高健ノンフィクション賞を受賞。
これ以降、科学者の社会的責任、科学の倫理を問う著作を発表。福島原発事故以降は放射能の保健物理や炉心分解ロボットなど情報システムの倫理、さらには電子情報金融などを含む高度自律システム、AIの倫理に研究範囲を拡大し、ミュンヘン工科大学Facebook AI倫理研究所と共にグローバルAI倫理コンソーシアムの創設に参加、理事を務める。新型コロナウイルス感染症蔓延後はパンデミックの防疫、生物統計、生命倫理などニーズによって研究範囲が拡大。東京都世田谷区の新型コロナウイルス後遺症統計の解析責任者などを務め、音楽の枠を超える倫理と人道を問うテーマにも正面から取り組む。
また伊東研究室ではコロナ以降、ヒト被験者を用いないセキュアなテーマである古巣の物性基礎研究を白川英樹教授らと共に再拡大し、2次元有機導体ナノシートの量子化電流発見など新現象に基づくオリジナルなモジュール群の創成・そのリハビリテーションなど福祉目的への応用なども進めている。ウクライナ開戦以降は共生のアート&サイエンス国際発信も活発化させ、「STREAM教育」の国際プロジェクトでは
<「1分子のゆらぎ」が「1ニューロンのインパルス」を生み「ひとつの気づき」に至る>をモットーに最先端かつ最も高度なモラル水準で横断的な芸術基礎研究を率い、内外で後進を育成。この間、一音楽家としての創作・演奏のペースは一切落とさず、すべて自身で手掛け、JBプレス原稿も本人が手で打っている。
他の著書に『表象のディスクール』(東大出版会)、『知識・構造化ミッション』(日経BP)、『反骨のコツ』(団藤重光との共著、朝日新聞出版)、『指揮者の仕事術』(光文社)『低線量被曝のモラル』(共編著 河出書房新社)『聴能力』(集英社)『スペクトラル・コンダクティング』(東大出版会)など。