今年もノーベル賞の季節がやって来ました。
日本では、オリンピックでメダルを取るように「日本人、日本人」しか言いませんし、ノーベル財団がどういう観点から賞を出しているかなどには、全く興味がないメディアが大半かもしれません。
しかし、今年はウクライナ戦争でスウェーデンがナポレオン戦争以来200年の「光栄ある孤立」を放棄、NATO(北大西洋条約機構)入りした年です。
ノーベル賞そのものが平和賞のみならず国内外で大きな岐路に立たされています。
そういう「賞を出す側」の事情も念頭に置いて、また世界のどこも書かない類のサイエンスの観点から恒例のノーベル賞解説をお届けします。
そもそも21世紀の今日、アルフレッド・ノーベルの名は世界最高の学術の権威として知られていますが、1896(明治29)年に彼が死んだ直後には「死の商人」として全欧州にマイナスのイメージしか持たれていませんでした。
彼は機雷やダイナマイト、数々の兵器を発明し、人類初の世界大戦「クリミア戦争」で大儲けしたり大損したりした。ノーベルは文字通り「死の商人」そのものでした。
実際、今年で123年目を迎えるノーベル賞ですが、昨年までスウェーデンは一貫して「武装中立」国家であり、自国製の武装を持ち、また世界最大級の通常兵器輸出国でもあり、核開発は1970年に「核拡散防止条約」を批准して核兵器開発を放棄しています。
ナチスもソ連もスウェーデンには攻め込まなかった。スウェーデンから弾薬を売ってもらえなくなると、対ソ戦/対独戦が戦えなくなってしまうからです。
そういう「イノベーションをカギに、中立と平和を守る」のがスウェーデンの国是でした。2021年までは・・・。
1967年に持たず、作らず、持ち込ませずの「非核三原則」を打ち出した佐藤栄作に1974年ノーベル平和賞が送られた背景には、管理通貨制度への本格的なシフトと石油ショックによる冷戦構造の変化が挙げられます。
人類全体の存続を念頭に、北欧が佐藤を象徴的に選んだ舞台裏があるのです。
しかし、ウクライナ戦争によってその決定的なバランスがノーベル賞史上初めて崩されてしまった。
そんな2022年のノーベル賞、往年の「日本にノーベル賞が来る理由」以来のスタイルで、平易に背景を解説してみます。