「魅力的な選手が増えている」

――1998年から駐日スカウトとして活動してきて、現在の日本の野球レベルは高まっているか。

大屋:間違いなく、全体のレベルは上がっている。メジャーのスカウトは、中学年代であれ、甲子園であれ、プロ野球であれ、常に、目の前の選手がメジャーの舞台で活躍できるかをイメージして視察する。

 その経験から言えることは、魅力的な選手が増えたということ。それだけ、投打ともに日本の野球レベルが上がっていると言える。

 投手はわかりやすく、球速が格段にアップした。昔なら150キロを投げれば「怪物」と騒がれたし、145キロくらいの球速があれば日本の1軍でも通用した。しかし、現在は独立リーグでも150キロを投げる投手がいる。

 そして、単なるスピードガンコンテストではなく、制球力などのクオリティーが高い選手がプロで活躍をしている。

 投打に言えることだが、トレーニングで体つきも変わってきた。ウエイトトレーニングも「プロ野球選手はボディービルダーではない」と敬遠された時代を経て、現在は多くの選手が正しい知識のもとで筋力をつけている。

 トレーニングの進化もあり、アマチュアの選手でも体が強い選手が増えている印象がある。

――日本のプロ野球を経ず、メジャーを目指す選手も出てきた。

大屋:かつては日本のドラフトで指名されない選手の中から、ダイヤの原石となり得る選手と契約することが多く、私も何人かの選手をマイナーへ送り出してきた。

 しかし、現在は状況が大きく変わった。これには、メジャーの実情も影響していると思う。マイナーリーグと言えば、粗末な食事に住環境も悪いイメージがあった。しかし、フロリダやアリゾナにあるルーキーリーグの施設を見てもらえばわかるが、そんなことはなくなった。

 ロイヤルズのマイナー施設を見たときも、食事は、バランスの良い料理を自由に好きなだけ盛ることができるビュッフェ形式で提供され、食事会場を巡回する栄養士が、選手がお皿に取ったメニューに「タンパク質をもっと摂ったほうがいい」「野菜が足りない」などとアドバイスをしていた。果物も豊富で、ハンバーガーは彼らにとって夜食メニューのようなものになっている。

 もちろん、2Aなどに昇格すると、遠征のバス移動も長く、ルームシェアをしている選手もいると聞くが、若い有望株を最初から厳しい環境でふるいにかけるというよりは、育成をするというスタイルに明らかにシフトしている。

 こうした情報をしっかりと調べた日本の高校生にとって、若いときからアメリカで野球をするという選択肢があっても不思議ではない時代になった。

 日本に駐在するスカウトを置く球団があるのも、プロアマを問わず、日本選手のニーズが依然として高いことが挙げられる。

 いまのレベルに何が足りないのか。何を補うことができたときにメジャーで通用するのか。これからも、未来を見据えたスカウティングを行っていきたい。

大屋博行(おおや・ひろゆき) 1965年大阪府生まれ。高校2年時に渡米し、現地の高校で米国野球を経験。高校卒業後に帰国し、その後、歯科技工士などを経て、1995年からメジャーリーグ、ダイヤモンドバックスの国際スカウト駐日担当。2000年からブレーブス、2018年からロイヤルズの同職として活動。日本選手のメジャー契約やマイナー契約に携わってきた。

田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授
1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。