これから「世界モデル」はどこまで普及するか?

 短期的には、ゲーム開発やVFX(視覚効果)、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)といったエンターテインメントとクリエイティブ市場での変革が現在進行形で始まっている。

 World Labsの商用製品「Marble」は月額20〜95ドルで利用でき、生成した3D環境をUnreal EngineやUnityといった主要ゲームエンジンにエクスポートすることが可能だ。これはゲーム開発のコストと期間を劇的に圧縮する可能性を秘めており、空間コンピューティングプラットフォーム市場全体は2035年までに1.2兆ドルに達するとの予測もある

 中期的には、自動運転とロボティクスの分野で飛躍的な進化が期待される。

 ロボット工学の分野では、世界モデルを中核に据えた強化学習アルゴリズム「Dreamer」を用いた実験で、四足歩行ロボットが事前のシミュレーションなしに現実世界でわずか1時間で歩行を学習し、突き飛ばされるなどの外乱に対しても10分で適応する能力を示した。

 ロボットにとって最大の課題の1つが、学習時に見たことのない物体をうまく扱えないという問題だ。

 従来のロボットは訓練データにない形状や素材の物体に出会うと、どの程度の力で掴めばよいかの判断が難しく、失敗することが多かった。しかしGoogleのDeepMindが世界の研究機関と共同開発した汎用ロボット制御モデル「RT-X」では、世界モデルを活用することで、未知の物体に対しても89%の成功率で操作が可能になっている

 中長期的には、LLMと世界モデルを統合した「Joint MLLM-WM」と呼ばれるハイブリッド・アーキテクチャが標準になると予測されている

 マルチモーダルLLMが「鍵を見つけてドアに持っていく」といった高度な意味理解とタスク分解を担い、世界モデルが「鍵を掴むための正確な手の動きや物理的制約のシミュレーション」を担う。これにより、言語的な柔軟性と物理世界での確実な実行能力を兼ね備えた自律型エージェントの実現が期待されている。

 そして長期的には、世界モデルはあらゆるスケールの物理現象を確率的にモデリングできる「万能物理シミュレーター」へと進化すると期待されている

 細胞や原子レベルのミクロな現象から、地震や金融危機、気候変動といった「ブラックスワン」(確率は低いが影響が甚大な)事象のモデリングまでが視野に入ってくる。新薬開発、材料設計、気候変動予測といった科学技術の最前線において、実験に先立ってあらゆる結果を検証できる基盤インフラとして世界モデルが普及していくと考えられている。