三つの危機でも強固に残った新卒一括採用
──細かく見ていけば、巷間言われている話と現実は違う、と。
常見:はい。そして最後は新型コロナウイルスのパンデミックの影響です。当時、最大の就職氷河期が到来したことを願うかのようにメディアから数多くの取材がきましたが、実際には採用は止まりませんでした。
観光や運輸関連の業界で採用ストップの動きが一部見られましたが、この時は、1.8倍台ぐらいで続いていた求人倍率が1.5倍程度に落ちたので、超売り手市場ではないものの、少し風邪をひいた程度、快晴から薄曇りになった程度の落ち込みでした。
就職活動のオンライン化と早期化が進んだのもこの頃です。前のめりに活用する学生はオンラインで内定をどんどん取るので、10社ぐらい内定を取った学生もいたほどです。むしろ内定辞退が相次いだのがこの時期の特徴です。
このように「就活の三つの危機」はたしかにありましたが、新卒一括採用はむしろ強固に残りました。
──就活におけるセクハラ、オワハラ、不適切な質問についても紹介されています。
常見:本書は基本的に新卒一括採用を擁護していますが、その中でしばしば見られる問題も紹介しました。
まず、就活セクハラがあります。「より深い話をするためにちょっと個別に会おうよ」「彼氏いるの?」などの質問、そして「君の女の子らしさがとても生きる職場だよ」といった発言は全部セクハラです。
また、就活マッチングアプリを通して学生と企業の担当者が会った際に性暴力・性加害を受けたという事例があります。これは就活セクハラどころではないとんでもない犯罪です。

このような事態を避けるために、面接官のリクルーター研修を徹底させ、オープンスペースで会うことを定め、業務時間外の採用活動やお酒を飲む機会を交えることを禁止するなど企業側は対策を取っています。
他社への就職活動をやめるよう迫るのがオワハラです。この名称で呼ばれるようになったのは2015年からですが、昔から見られる事例です。バブル期からさまざまなエピソードが面白おかしく報じられてきました。コーヒーやカレーをかけられた、ホテルで軟禁されたなどの話をよく聞きますよね。
「(自分たち以外の)全社にこの場で電話をかけて辞退を伝えよ」や「他社を全部断ったら内定出すよ」などの言い方は完全にオワハラの定義に当てはまります。内定承諾書の強制などもオワハラです。これらの行為は職業選択の自由を放置することを迫っています。
就職における差別や差別的な質問などが依然として存在することも調査から明らかになっています。例えば、出身地、思想信条、家族構成などに関する質問がこれに当たります。これらは、求職者の人権を侵害する行為ですが、新卒一括採用のみならず中途採用でも起こります。
ここまで、新卒一括採用の合理性や就活が直面する問題について話してきましたが、就活というのは、社会・会社・自分の現実に向き合うのにいい機会です。私自身も就活中に自分の価値観・人生が大きく変わりました。就活生は特に、就活を通して得られる発見にワクワクしてほしいと思います。
常見 陽平(つねみ・ようへい)
千葉商科大学基盤教育機構准教授・評論家
1974年生まれ。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒、同大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、ベンチャー企業、フリーランス活動を経て現在は千葉商科大学基盤教育機構准教授、評論家。『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)、『リクルートという幻想』(中公新書ラクレ)、『「できる人」という幻想──4つの強迫観念を乗り越える』(NHK出版新書)、『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版)、『50代上等!──理不尽なことは「週刊少年ジャンプ」から学んだ』(平凡社新書)など。
池松 聡(いけまつ・さとし)
ビデオジャーナリスト・ライター
2026年3月、神戸大学法学部法律学科卒業。同年4月より京都大学公共政策大学院在学。神戸大学在学中は安全保障および国際政治を専門とし、国際関係論や日米関係を中心に研究に取り組む。現在は公共政策大学院において、公共政策を主軸に、行政の制度設計や政策形成過程など実務的観点からの学修を行っている。2025年より「著者が語る」チャンネルに参画。ビデオジャーナリスト・ライターとして、新刊を出版した著者へのインタビューを行い、動画制作および記事執筆に従事している。