守られなかった「核放棄の見返り」、ブダペスト覚書が露呈させた国際合意の脆さ

「安全の保証」に関しては、そもそも「ブダペスト覚書*注」に基づき、ウクライナの安全を保証しなければならないのはロシアである。“保護者”自らがウクライナを蹂躙(じゅうりん)する現状は、もはやだまし討ちでしかない。

*注:ブダペスト覚書(1994年12月)/1991年のソ連崩壊で独立国となったロシア、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの4カ国は、旧ソ連が保有する核兵器も分割保有した。だが核拡散を懸念する米英ロは、ロシア以外の3カ国に核を完全放棄させ(ロシアに譲渡)、見返りに米英ロが3カ国の主権と国境線を尊重・保障する政治的合意を行った。しかし、ロシアによる2014年のクリミア併合や2022年からの侵攻でこの覚書は破綻し、実効性や法的拘束力が問題視されている。

 国際的取り決めをあっさりと反故にするプーチン氏の非道さもさることながら、結果的にウクライナの安全を保証しない米英も重罪だろう。米政府は、ブダペスト覚書は米英ロが“安全の保証”を与えた政治的合意ではあるが、「軍事介入の義務まで明記した条約ではない」との見解を崩さない。

「核兵器を手放さなければよかった」と、ゼレンスキー氏が悔やんだとしても不思議ではない。くしくも覚書が全くの画餅であることが証明され、欧米の口約束や紙の文書ではなく、文字どおり「ブーツ・オン・ザ・グラウンド:軍靴で地面を踏め=地上部隊派遣」以外、信用できない心持ちのようである。

「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」ゼレンスキー氏は安全の保証として米軍部隊の駐留を強く求めている(写真:アメリカ欧州軍ウェブサイトより)

 いずれにしても、ゼレンスキー、プーチン、トランプ3者の思惑は、全く折り合いがつかないというのが実情だ。仮に和平協定が締結したとしても、ガザ紛争のように、「和平」とは名ばかりで数日後に戦闘再開、という状況に陥る可能性が高い。

全く折り合いがつかない3者の思惑(左からロシアのプーチン大統領、トランプ米大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領(写真:ゲッティ=共同通信社)