「ドンバス譲渡」「NATO永久非加盟」──和平案の中身が示す“ウクライナ切り捨て”
トランプ氏はロシア寄りの和平案を受諾するようにと、執拗にゼレンスキー氏を口説いているようだ。英BBCなどの報道によれば、昨年11月20日に提示した和平案は、ロシアとの共同作業でまとめたものらしく、トランプ氏のロシアびいきが際立つ内容だったようである。
詳細は公開されていないが、全28項目で「東部ドンバス(ルハンスク、ドネツク両州)地方全土のロシアへの譲渡」「ウクライナ軍の大幅縮小」「兵器の大半の放棄」「NATO(北大西洋条約機構)への永久非加盟」などが列挙されていたという。
対するロシアへの優遇措置は手厚く、和平協定締結後は、欧米が課す制裁を解除し、主要7カ国(G7)に加え、「G8」を復活させる(ロシアは2014年、クリミア半島侵攻を理由に除名)と大盤振る舞いの内容だったらしい。もちろんゼレンスキー氏は拒否し、その後何度も修正が加えられるが、いまだ受諾にはほど遠い。
2025年8月15日、アラスカ州アンカレッジで行われたトランプ米大統領(右)とロシアのプーチン大統領の会談(ⒸPresident of Russia Office apai/APA Images via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)
そして、3回目となる3カ国高官協議が、今年2月17~18日にスイス・ジュネーブで開催された。米ホワイトハウス報道官は「有意義な進展があった」と強調したが、結局ウクライナ、ロシア両者は一歩も譲らず、物別れに終わった模様である。
2026年2月16、17日にスイス・ジュネーブで行われた米国・ロシア・ウクライナによる三国協議(ⒸYekaterina Chesnokova/TASS via ZUMA Press/共同通信イメージズ)
勝ち戦のロシアが譲歩することはなさそうで、特に「ドンバス地方の支配権獲得」「米軍やNATO軍のウクライナ駐留拒否」の2点は、絶対に譲れないだろう。
一方のウクライナもこの2条件は絶対にのむことのできない核心的部分だ。ゼレンスキー氏にとっては、まだロシア軍に制圧されず、自国の将兵が死守する地域も手放し、ドンバス地方をロシアに差し出せとの要求は、「盗人に追い銭」の何ものでもなく到底受け入れられないだろう。
このままの条件では、結局両者は平行線をたどるしかない。
「安全の保証」に関して、アメリカ側は「15年」を提示した、とも伝えられる。
時事通信によれば、ミュンヘン会議でゼレンスキー氏は記者団に対し、「(安全の保証期間は)20年以上で、30年、50年を望む」とし、さらに「投資家や企業は、5年、10年よりも長い保証をほしがっている」と、ビジネス優先のトランプ氏をけん制する。
欧州駐留の米陸軍部隊。ウクライナが求める「安全の保証」に関し、トランプ氏は米軍駐留には否定的(写真:アメリカ欧州軍ウェブサイトより)
トランプ氏が「6月停戦」と期限を設けたのには、今年11月のアメリカ中間選挙をにらんだスケジュール的な理由が見え隠れする。有権者に対してインパクトのある話題でアピールしたいとの思惑である。
欧米の政財官界・芸能界を巻き込む性虐待事件、いわゆる「エプスタイン問題」対策も関係しているのではないかとの見方も一部にある。トランプ氏も関係していたとする疑惑は根強く、中間選挙を前にイメージダウンを避けるため、世間やマスコミの目をそらそうと、次から次へとセンセーショナルな話題を発信する作戦と見られているのだ。
そして、相変わらずの「ノーベル平和賞」受賞願望も無関係ではないだろう。仮に6月のタイミングで和平にこぎ着ければ、2026年の受賞者が発表される10月に十分間に合う。