「僕は自分のところに来る人とは関係は切りません」

──上手く自分の心境を語れないけれど、何か悩みを抱えていそうな人に出会った時、南さんは話すようにうながしますか?

南:ストレートに何を思っているのかを問い詰めるようなことはしません。ただ、そういう人には兆候のようなものがあり、僕はわりとそうした気配に敏感です。そういう時に、少し呼び水になるようなことを言うと、どどどっと話が出てくることもあります。

──何か悩んでいるけれど語ろうとしない友人と会うと、どこまで突っ込んで聞いてみようか悩みながらじりじりと時間ばかりが過ぎていく。そんなことが時々あります。

南:それでいいと思います。僕も無理には悩みを語らせませんが、必ず次に会う約束はするようにしています。何かある人は会う約束をすればまた来ます。そうやって何度か会っているうちに、やがて言い出す人もいます。

 急いではダメです。尋問じゃありませんからね。そして、関係を切らないこと。僕は自分のところに来る人とは関係は切りません。

──さまざまな方々が、自分や肉親の死について南さんに相談したときのことについて書かれています。南さんはいずれのケースにおいても、相手の人生観や思い込みを否定したり正したりしようとはせず、相手のストーリーに合わせて、ご自身の考えを伝えているという印象があります。

南:問題さえ共有できれば、答えはその人に合わせるほうがいいと僕は思っています。どんな病気なのかが分かれば、あとは対症療法でいけばいい。

 人は生きているかぎり悩みを抱えます。そして、多くの悩みは根治できません。だから、その都度の対症療法でいいのです。僕にできる対症療法とは、目の前の人の話を聞くことです。最終的に問題を何とかするのは相談者本人です。

 大事なことは、何が問題なのかを明らかにすることです。それが分かればいい。分かれば自分で何とかできます。ただ、これが難しい。なぜなら本人が問題を自覚していないからです。だから、人の相談に乗るときには、相手に何が起こっているのかを僕は知ろうと努めます。

 問題を明らかにするためには、相手の言うことを否定してはいけません。問題があるから来ているのに、「あなたダメです」なんて言ったら相手は話せなくなってしまう。

 相談者の悩みのほとんどは人間関係に関することです。「あいつが嫌い」「あいつが悪い」「これがおかしい」とまず感情的な話が先に出てくる。しかし、よく話を聞いていると次第にその下が見えてくるのです。

 人間関係の悩みの根底にあるのは、利害関係と力関係です。上は国家から下は家族まで、すべては力と利害関係の配分の問題、つまり政治です。これを度外視して感情の問題として取り組んでも決して解決しません。

 土台の権力関係と利害関係がどうなっているのか。その上で現在どういう付き合い方をしているのか。感情を全部拭い去って関係だけを見る。するとバグが見えます。