中国現地の実態は予想外に平穏だった

 ところが、北京到着直後からその理解が間違っていることを多くの日本企業関係者から聞かされた。それは成都でも上海でも同じだった。

 中国に進出している日本企業のある幹部は次のように話してくれた。

「日本企業のビジネスへの影響はほとんどない。不買運動もなく、対日輸出規制も民生品は対象外のため、実害はほとんどない見通しである」

「北京や上海で日本人が街中を歩いていて身の危険を感じることもない。タクシーの運転手等見知らぬ人に絡まれることも皆無である。これは尖閣問題の時と全く違う」

 誰に聞いてもこういう答えが返ってきた。北京到着直後は耳を疑った。

 中国駐在の日本企業関係者の中には10年、20年もの長期にわたって、ずっと中国に駐在し続けている人や、数年間ずつ何度も駐在を繰り返している人が少なくない。

 そうした人々の中には、尖閣問題の時にも中国に駐在していたため、本人や家族が外出するのが怖かったという経験をした人が少なくない。

 その人たちが今も北京や上海に駐在しているため、当時との比較を自分自身の経験として語ってくれた。

 日本企業の中国ビジネスについては、2009年以降、筆者自身が定期的に四半期ごとに中国に出張して、中国経済情勢や日本企業への影響に関する出張報告を作成していたため、尖閣問題発生当時の記録が残っている。

 尖閣問題発生の2012年9月から4か月以上が経過した2013年1月後半の中国出張報告の記述の一部を抜粋して引用すれば、以下のとおりである。

●「習近平体制下の中国経済動向および尖閣問題後の日中関係」(北京・重慶・上海出張報告、2013年1月21日~2月1日、キヤノングローバル戦略研究所HP筆者コラム掲載)

「自動車販売が前年の8割程度まで回復し、その他の産業では一部の例外を除き、ほぼ尖閣問題発生前の状況にまで戻っていた。中国人の一般庶民の間には反日感情が根強く尾を引いている」

「このため、日系企業は政府調達の対象からはずされることが多いほか、従来贈答品として重宝された日系デパート・スーパーの商品券の売れ行きも大幅に減少したままである」

「地域的には上海以南と北京以北では大きな差があり、北京を中心に北方では政治の影響が強く、悪影響が残っている」

 今回の筆者の中国出張は、高市発言の約2か月後のタイミングであるため、尖閣問題発生後の状況と同じであれば、上記の出張報告(尖閣問題発生の4か月後)よりはるかに厳しい状況にあったはずである。

 しかし、上述の通り、現状の日本企業の中国ビジネスへの影響はほとんどない。例外的に影響があるという話を聞いたのは以下の2点である。

 一つは、大手日系家電メーカーのeコマースで宣伝していたインフルエンサーの中国人が全員契約を打ち切った。

 これは福島第一原子力発電所の原発処理水放出の時も同じだったので、その日本企業は特に驚かなかったが、売り上げにはマイナスの影響が生じた。

 もう一つは、成都の大手日系スーパーの販売が、高市発言後、2週間だけ1割ほど売り上げが減少した。ただし、それ以降の影響は皆無となっている。

 以上はBtoC関連ビジネスの話である。大手商社、金融機関等BtoBのビジネスの話を聞くと、影響は皆無との回答ばかりだった。

 また、尖閣問題の時は数年にわたって深刻な影響を受けた自動車メーカーも今回の影響はほとんどない模様。

 スシロー、はま寿司といった回転寿司チェーン店は新たな店舗を開業すると10時間以上の待ち行列ができるほか、サイゼリヤも低価格の飲食の人気が高い。

 ユニクロ、デサント、MUJI等の衣料、民生品も好調を維持しているなど、中国現地では日本企業の業績にほとんど影響が見られていないとの見方は現地日本企業の共通認識である。

 以上のように、街中で日本人が感じるリスクも日本企業の中国ビジネスが受けるダメージも、尖閣問題当時とは比較にならないほど軽微である。