トランプ氏への反発は世界中に広がっている。国賓として英国を訪問したトランプ氏に対し、ウインザー城に少女買春などの罪で起訴され自殺したジェフリー・エプスタイン元被告とのツーショットを映し出し抗議する人たちも(9月16日、写真:ロイター/アフロ)

1.トランプ政権に対する見方の変化

目次

 先週初めから、今年3回目の米国出張でワシントンD.C.、ボストンなどを訪問し、大学、シンクタンク等の専門家、有識者との面談を通じて、トランプ政権第2期の政策運営に対する見方を聞いた。

 2月下旬の本年1回目の米国出張の時には、大統領就任直後から毎日のように常軌を逸した内容の大統領令を出し、記者会見を重ねるドナルド・トランプ大統領に多くの専門家、有識者、メディア関係者等が振り回され、動向をフォローすることに疲れ切っていた。

 5月下旬の2回目の出張では、トランプ大統領の言動パターンに慣れた人たちが多くなったように感じられた。

 ほぼすべての専門家、有識者が第2期トランプ政権の政策運営に対して、第1期以上に予測不能性が高まっていると見ていた。

 加えて、数人の専門家は、トランプ大統領の行動基準は「grievance」(トランプ大統領に対する尊重の姿勢が不十分な相手に対する不満や怒り)であるという見方を示した。

 本年3回目となる今回の米国出張では、専門家、有識者がトランプ大統領の言動や政策運営に慣れる一方、それらに対する修正を促す努力をしても効果がないといったあきらめムードが増しているように感じられた。

 それは大統領府(行政)に対するチェック・アンド・バランスの機能を発揮することが期待されている議会(立法)と裁判所(司法)がその役割を果たさないことがますます明らかになってきていることが背景にある。

 民主主義国家運営の大前提である三権分立が機能せず、民主主義が破壊されているのがトランプ政権第2期の実態であるとの指摘は、ほとんどの専門家、有識者の一致した見方となっている。

2.トランプ政権による権力濫用の具体例

 上述の問題点については多くの具体的な事例が指摘されている。

 USAID(U.S. Agency for International Development=米国際開発庁)、教育省の設立は議会が決定した法律に基づいていることから、その解体も議会の権限に属する。

 それにもかかわらず、トランプ政権は大統領の命令によってそれらを解体した。これは憲法違反であるが、議会はこれに反対しない。

 半導体を開発・設計・販売するNVIDIA(エヌビディア)と半導体メーカーのAMD(Advanced Micro Devices)の両社が中国向けに輸出する人工知能(AI)チップからの収入の15%を米国政府に支払うことが義務付けられた。

 これは違法な措置であると指摘されているが、議会は反対することなく容認している。

 トランプ政権が日本をはじめ、多くの貿易相手国を対象に実施している相互関税についても第1審、第2審で違憲判決が出されているが、トランプ政権は最高裁に上告して争っている。

 今後、最高裁が違憲判断を支持したとしてもトランプ政権は別の法的根拠に基づいて関税を引き上げるので、相互関税が他の名目の関税によって置き換わるに過ぎないと予想されている。

 これは、米国政府が自由貿易を制限しようとすればどんな手段を用いてでも制限できることを意味している。

 そもそも、世界の自由貿易を推進する役割を担うWTO(世界貿易機関)が機能不全に陥っているのも米国政府の自由貿易に反対する立場からの様々な圧力によるものである。

 このほか、違法とまでは言い切れないが、米軍制服組幹部や労働統計局長の解任、FRB理事に対する辞任要求、DEI(Diversity=多様性、Equity=公平性、Inclusion=包括性)を支持するメディアや民間企業の人事への干渉など権力の濫用事例は数えきれないほど指摘されている。