積み上げた「働き方改革」の成果を無駄にするな、安易な緩和が招く“過労自慢”の再来

 時間連動性が低い職種だからといって、企画職の社員に会社が「企画案を5つ出すまでは休日返上で働け」と業務命令するようなことがあれば、過労で心身を壊しかねません。

 自らの意思で選択する権限を持った上で能動的に長時間労働するのと、会社に指示されて長時間労働になるのとでは心身にかかるストレスが大きく変わります。

 成果との時間連動性が低い職種であっても、業務の裁量権を持って自律的に仕事を遂行できるかどうかは重要です。労働時間を気にせずに働けるよう規制緩和するのであれば、会社が社員に業務裁量権を付与するのとセットでなければなりません。

 一方、社員側も業務裁量権を付与されるようになるには、会社が求める成果にコミットする必要があります。上司の指示を待つだけの他律的マネジメントから脱却し、任された仕事にWhatでもHowでもDoでも自らが主体となって取り組み、成果へとつなげる“自律的マネジメント”への移行が求められます。

 働き方政策は、これまで着実な成果を上げてきました。厚生労働省が労働政策審議会の労働条件分科会に提出した資料を確認すると2018年に130時間だった所定外労働時間は、働き方改革関連法で残業時間の上限規制が始まった2019年に127時間へと減少しています。

 コロナ禍の影響で2020年には110時間まで極端に下がりましたが、経済環境が回復した2024年でも120時間と法施行前より低い水準のままです。長時間労働の是正が進んでいる様子がうかがえます。

 また同資料から、年次有給休暇の取得率も2018年の52.4%から上昇し続け、2024年は66.9%になっています。働き方政策によって法制度を整備したことが、一定の成果を上げていると感じます。

 それを「経済成長にも資するから」「もっと働きたいと希望する人がいるから」などと、安易な理由づけで長時間労働を是認してしまうと、これまで積み重ねてきた成果が無に帰すことになります。

 取り組まなければならないのは、長時間労働の是正をベースとしつつ、仕事遂行の妨げにならないよう労働時間規制を最適化し、誰もがワークライフバランスをとりながら経済成長に資する働き方政策です。

 かつてモーレツ労働が礼賛されていたころは、「昨日も徹夜で会社に泊まり込んだよ」と自分がどれだけ長時間働いたか過労自慢する人がたくさんいました。働き方改革が進み、過労を当たり前とせず、適労(適正な労働)を目指す風潮が生まれてきたように思います。

 時間連動型の給与体系がはらむ矛盾や仕事ごとの性質の違い、業務裁量権などを丁寧に考慮せず働き方政策の検討を進めてしまうのは危険です。労働時間規制の最適化ではなく緩和ありきで長時間労働を是認すれば、過労回帰へと転じてしまうことになりかねません。