出所:共同通信イメージズ
自民党総裁選のスピーチで高市早苗首相が発し、2025年の新語・流行語に選ばれた「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」。この言葉に共感する人が多かった背景には、日本社会に根強く残る「がむしゃらに働くこと」を善とし、ときに自らに課してしまう思考様式が垣間見える。そして、その思考の根源には「1955年に始まった国民運動がある」と語るのは、2025年9月に著書『人が集まる企業は何が違うのか 人口減少時代に壊す「空気の仕組み」』(光文社)を出版した、法政大学教授の石山恒貴氏だ。多くの日本人がひたすらに働くことを良いことと捉える理由、日本的雇用の本質的な問題点について、同氏に話を聞いた。
日本的雇用が抱える「本質的な問題」
──著書『人が集まる企業は何が違うのか』では、日本企業の仕組みと日本的雇用が抱える課題や解決策について述べています。なぜ、こうしたテーマを選んだのでしょうか。
石山恒貴氏(以下敬称略) ジョブ型雇用の浸透や転職の一般化によって「日本的雇用は変わった」と語られることが増えています。しかし実態としては、見かけ上の変化にすぎません。そして、どの企業も横並びで似た方向性に変えようとしている点に大きな問題があると感じています。
本来、人事の目的は「企業の持続的な競争優位性を高めること」にあるはずです。それならば、他社が容易に模倣できないような独自の仕組みを構築すべきですが、実際には多くの企業が「他社もやっているから」という理由で、同じような制度を取り入れてしまっているのです。
例えば、欧州連合(EU)諸国では「引っ越しを伴う同意のない転勤」は人権侵害と見なされるケースもあります。一方、日本では企業が社員に対して転勤を命じることが当然の権利と捉えられています。
ジョブ型雇用の考え方に基づくなら、本人が同意しない転勤を命ずるという発想は生じないはずですが、雇用主側の転勤命令の権利は確保したままで、それを導入する企業もあるようです。
最近でこそ転勤のあり方の議論が注目されていますが、経営層や人事部門の多くが同意のない転勤を「当然のこと」として受け入れている場合も、まだまだ多いようです。私はこうした本質的な問題にこそ日本的雇用の課題があると考え、本書を執筆しました。
企業によっては社員に同意を得ずに引っ越しをさせたり、長時間残業をさせたり、職種を変更したりすることが、経営戦略上を考える上で有利だと考えているかもしれません。しかし実際には、そうした一方的な命令が企業の競争力を削いでいる可能性があります。
こうした状況では組織と個人がお互いのニーズをすり合わせることに努力しなくなり、マネージャーとメンバーの本質的な対話の機会が奪われ、社員が自律的にキャリアを築くことが難しくなり、結果としてエンゲージメントが低下します。これは長期的に見て企業にとって大きな損失であり、見落とされがちなリスクといえます。







