民主主義のインフラをどう立て直すのか

 物理的な選挙掲示板には全候補者のポスターが並び、選挙公報にも全候補者の情報が掲載される。「有権者に平等な判断材料を提供する」という民主主義のインフラとして設計されているからだ。しかし、SNS上で拡散されるのは、アルゴリズムが選んだ、あるいはアルゴリズムに合わせた情報発信ができる候補者だけだ。

 もちろん、前述の「三バン」しかり、あらゆる要素を平等にして選挙を実施するというのは事実上不可能だ。ただ、たとえば「鞄」について言えば、公職選挙法や政治資金規正法によって選挙運動費用や政治家・政党への献金額が規制されるなど、これまで発生したゆがみや不正に合わせたコントロールがなされている。

 だが、SNSについて言えば、その政治利用が急速に普及し、またそれを「利用」するテクニックが高度化しつつあることで、悪影響が野放しの状態になっている。

 今回の超短期日程は、この問題を拡大させた。16日間という異例の短さのため、複数の自治体で投票所入場券の発送が遅延した。選挙公報の配布に遅れが生じた自治体もある。つまり、民主主義の「平等な判断材料」を届けるインフラが物理的に追いつかなかった。

 一方、SNSは公示前から24時間候補者情報を発信し続けている。入場券が届かない地域にも、SNSのアルゴリズムに選ばれた候補者の情報、より正確に言えば「アルゴリズムを見抜いた者が届けたいと思う情報」は届いていた。

 この格差は都市部と地方の間でさらに拡大する。2024年衆院選のデータを分析したネットコミュニケーション研究所の分析によれば、人口密度3001人/km2以上の選挙区ではYouTube視聴数・Xフォロワー増加数が、349人/km2以下の選挙区の2倍以上であった。つまり、SNSが「届く」度合いにはすでに構造的な地域格差が存在しており、物理的な選挙インフラの遅延がそれを補完するどころか、さらに格差を拡大させた可能性がある。

 これまで、十分とは言えなくても、平等になるように設計されてきた民主主義のインフラは、SNSの登場によって完全に壊れてしまった。これを立て直すにはどうすれば良いのか、私たちは国任せにするのではなく、一人ひとりが考えなければならない。

 言うなれば第51回衆院選は、大雪と超短期決戦がSNS依存を極限まで押し上げた「実験」だった。その結果を、私たちは単なる選挙結果としてだけでなく、民主主義の情報インフラの耐久テストとして読み解く必要がある。

 自分のPCやスマホに表示される「おすすめ」が、この国の一票をどれだけ動かしているのか。その問いに目を背けている余裕は、もうないはずだ。

小林 啓倫(こばやし・あきひと)
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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