科学館の「遺跡」をキリンが歩く

 既存建築の再構築5作品は、東から「霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ」「ニシイケバレイ」「横浜美術館 空間構築」「ラビットホール」「ド・ロさまと歩くミュージアム 大平作業場跡」。うち「ニシイケバレイ」が住宅を含む作品で、新旧の建物が並ぶ一帯の「エリアリノベーション」だ。ほかの4作品はざっくり「展示施設」とまとめることができる。ただし、再構築の手法はそれぞれ異なる。

 茨城県行方市の「霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ」は、建設後20年ほどで閉館してしまった旧「水の科学館」の再生活用プロジェクト。既存の建物を「改修」するというより、一部「解体」して半屋外化し、その周囲をうねりながら巡る「歩廊」を新設した。施設自ら「遺跡」と名乗る。

 写真を見ると人間のほうが「歩廊」に隔離され、動物たちがのびのびと動き回っているようだ。従来の動物園の、人間と動物の「見る/見られる」関係も「解体」し、互いを身近に感じて過ごせる「みんなのいえ」になっている。

「霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ」。施設のホームページ冒頭に次の文言が掲げられている。「ここは、動物や自然を通し、私たちの暮らしや地球のことを考え、未来へ届けるための遺跡です」。日本建築家協会による2025年度「JIA日本建築大賞」に輝いた。設計/髙橋⼀平建築事務所(写真:ロンロ・ボナペティ)

ポストモダン建築を改修した美術館2作

 みなとみらいにある「横浜美術館」は、巨匠・丹下健三の設計で1989年に開館した。「ポストモダン」と呼ばれるスタイルで、西洋の神殿や古典建築を思わせる外観が特徴だ。2021年から大規模改修が行われ、2025年2月に全館リニューアルオープンを果たした。内部の見せ場は広大な「グランドギャラリー」で、ガラス張りの天井が改修され、自然光がたっぷりと降り注ぐようになった。

 推薦委員会が注目したのは、建築家・乾久美子とグラフィックデザイナー・菊地敦己のコラボレーションによる空間構築だ。建築のメイン素材である御影石から抽出した色で什器をデザインしている。重厚で硬質な印象の建築から、ピンクやグレーのやさしい色合いが取り出されたことに驚く。無料の「じゆうエリア」に、大小のテーブルや椅子、クッションや本棚を点在させ、多様な居場所をつくっている。

「横浜美術館」の「じゆうエリア」。手前は「まるまるラウンジ」、向こうに「グランドギャラリー」がひろがる。スツールの一部には立ち上がりを助けるハンドルが付いている。障害当事者の意見を反映しているそうだ。空間構築/乾久美⼦建築設計事務所、菊地敦⼰事務所(写真:飯⽥彩)

 岡山城の近くにある現代美術館「ラビットホール」も、ポストモダン建築のリノベーションだ。館名の「ホール」は「Hall」ではなく「Hole」で、『不思議の国のアリス』のうさぎの穴から採ったもの。起業家・石川康晴がコンセプチュアル・アートを中心に集めた「イシカワコレクション」を展示する。

 改修設計は「京都市京セラ美術館」のリノベーションを手掛け、館長も務める青木淳。外観はほとんど変えず、屋内は内装をほぼ剥ぎ取ったままの状態で展示空間としている。解体工事の途中のような、がらんと荒々しい空間が現代アートによく似合う。今後はアーティストによる創造的な改変も受け入れていくという。

「ラビットホール」1階展示室。新たに開いたガラスの開口部の向こうに岡山城遺構の石垣を望む。設計/⻘⽊淳@AS(写真:萩原詩子)