長崎の明治、東京の昭和の生かし方

 長崎の「ド・ロさまと歩くミュージアム」は、遠藤周作『沈黙』の舞台になった潜伏キリシタンの里・外海(そとめ)地区を中心とするフィールドミュージアム。「ド・ロさま」とは1879(明治12)年にこの地に赴任したフランス人神父で、私財を投じて教会や救助院を建て、信者たちに生業を授けた。一度も帰国することなく没し、外海の共同墓地に眠る。

「大平(おおだいら)作業場」は、ド・ロ神父が信者たちと一緒に17年かけて開墾した畑のための納屋だ。神父が編み出した「ド・ロ壁」と呼ばれる石積みと、一部レンガでできた建物で、改修前にはすでに屋根は失われ、崩壊が進みつつあった。「改修」といっても、元の建物にはほとんど手を加えずに保存し、周囲を新しい建物で囲んで守っている。内部に見学路や作業スペースを設け、神父が残した壁のなかで茶葉を煎ったりパンを焼いたりできる、生きた遺構としている。

「ド・ロさまと歩くミュージアム ⼤平作業場跡」。なるべく遺構を見せるため細い鉄の柱で囲み、1階部分は「ド・ロ壁」を露出させている。石積みの欠けた部分はガラスブロックで補い、新旧の区別を明確にした。設計/⽂化財保存計画協会、D4H(写真:長井美暁)

 池袋駅近くにある「ニシイケバレイ」には複数の木造家屋と共同住宅が立ち並ぶ。昭和の民家や木造アパートを改修したカフェ、料理屋、コワーキングスペース&シェアキッチンがあり、単身・夫婦向けのアパート、さらにファミリー向けの14階建てマンションもある。2025年には新築の3階建て共同住宅「TELAS」が加わった。

 一帯はこの地で代々続くオーナーの所有という。既存の建物群を少しずつリノベーションし、相互を隔てていた塀や壁を撤去して、エリア全体をゆるやかにつなぎ合わせた。道沿いには植栽が施され、あちこちにポケットパークのような滞留空間がある。新築の「TELAS」も、それ自体が小さな街のような建物で、1階に店舗や多目的スペースを設けている。

「ニシイケバレイ」。写真左側が新築の「TELAS」、道路を挟んで右側に木造平屋を改修したカフェ「Chanoma」がある。おのおのの敷地前面の石畳や植栽が境界線を曖昧にする。設計/須藤剛建築設計事務所(写真:萩原詩子)

地域に開かれ、だれもが使える建築

 銀座・数寄屋橋交差点のソニービル跡地に出現した「Ginza Sony Park」も、つくりかけのような、壊しかけのような構造物だ。実際、地下にはソニービルの痕跡も残している。

 1階は、交差点の人通りとシームレスに交じり合うオープンスペース。かつてソニー創業者・盛田昭夫が「銀座の庭」と呼んだ場所を「銀座の公園」に拡張した。ここから緩やかな階段、スロープと続く回廊で階上に誘われる。超一等地にもかかわらず固定のテナントやショールームはなく、ただ休憩するだけにも使える。民間企業が街に提供する、公共性の高い建築だ。

「Ginza Sony Park」。交差点の歩道と敷地の間に段差はなく、人々が自由に行き交う。設計/Ginza Sony Park Project、荒⽊信雄、⽯本建築事務所、⽵中⼯務店(写真:萩原詩子)