根本的に解決できない2つの課題
インフラの老朽化対策については、政府も手をこまねいているわけではありません。
安倍晋三政権時代の2015年、アベノミクスの柱の1つだった成長戦略「日本再興戦略2015」の一環として「インフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議」を設置。その後、「インフラ長寿命化基本計画」を策定しました。
それによると、インフラの種類ごとに具体的な点検・整備・修繕などの計画を策定し、事後ではなく予防的な工事によって長寿命化を図るとされています。そして2030年ごろには「老朽化に起因する重要インフラの重大事故ゼロ」および「国内の重要インフラ・老朽インフラの点検や修繕においてセンサーやロボット等の活用を100%に」という目標を掲げました。同時に「センサー・ロボット等の世界市場の3割を獲得」という“夢”のようなプランです。
ドローンやセンサーの技術発展やAIの活用により、インフラ再興の現場では急速に近代化が進んでいると言われています。しかし、根本的な2つの課題は解決できていません。
1つは、インフラを支える技術系公務員の不足です。国土交通省が2024年4月時点で作成した資料によると、全国で1741ある市区町村のうち、技術系職員が1人もいない自治体は440に達しました。全体の25%も占めています。これを含め、技術系職員が5人以下という自治体は5割を数えました。
技術系職員が数人しかいないとなると、いくらドローンやセンサー利用の点検を増やしたとしても、構造物の網羅的な点検は非常な困難を伴います。検査漏れや予兆の見落としが生じないか、心配が消えません。
関係職員の急減も目立ちます。2005年度に約10万5000人だった市区町村の土木部門職員は、20年後の2024年度には約9万1000人となりました。減少率は13%。一般職員の減少率7%と比べると、大きな開きがあります。
そして最大のネックが費用です。国土交通省が2019〜2048年度の30年間を対象に試算したところ、事故を未然に防ぐ「予防保全」を実施した場合、最大で194.6兆円が必要との結果が出ました。事故が起きてから対応する「事後保全」の場合、事業費は284.6兆円。つまり、長寿命化を計画通りに進めると、約100兆円・32%程度の削減効果があるというわけです。
100兆円を節約するにしても、30年間で194.6兆円を投じるには、毎年6.5兆円もの予算が必要になります。インフレによる資材の高騰や人手不足に伴う人件費増大を加味すれば、この金額はさらに膨らむでしょう。「八潮市のような重大な道路陥没を引き起こさない」という目標は、茨の道というほかありません。
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。高田氏の近著に『調査報道の戦後史 1945-2025』(旬報社)がある。