東京ドームが熱狂
ゴングが鳴ると、EVILは容赦なく牙をむいた。ロックアップの瞬間を突き、場外へ放り出す。鉄柵、リング下、あらゆる場所が凶器となり、セコンド陣が入り乱れる。レフェリーの制止は意味をなさず、試合は早くも無秩序の様相を呈した。プロレス特有のカオス空間とも言える“理不尽さ”を、デビュー戦から全身で浴びせかけられる。
だが、ウルフは動じなかった。場外で捕まえられても体勢を入れ替え、相手を投げ飛ばす。柔道で培った体幹とバランス感覚が、極限の混戦でも崩れない。リングに戻ると、今度はブレーンバスターで叩きつけ、ジャンピングエルボーもお見舞いした。プロレスの古典的な流れ技だが、ためらいは一切ない。動きに迷いがないことが、場内に伝わっていく。
それでもEVILは主導権を渡さない。急所攻撃、凶器攻撃、セコンドの介入。王者として、そして悪の象徴“キング・オブ・ダークネス”として、あらゆる手段を尽くす。サソリ固めで悶絶させられるとウルフの表情は次第に険しくなり、スタミナも削られていった。それでも、膝をついて終わることはなかった。受け身に回るのではなく、耐えながら反撃の機会をうかがう。その姿勢が、次第に東京ドームの空気を変えていった。
流れを引き寄せたのは、一瞬の隙だった。EVILを捕らえ、豪快なパワースラム。さらにオリンピックスラムのような投げ技も決め、ボディスラムで横たわらせると続けざまに躊躇することなくコーナーへ駆け上がり、トップロープから宙を舞う。棚橋弘至を彷彿とさせるハイフライフローが炸裂した瞬間、場内が揺れた。柔道家ではない。完全にプロレスラーの動きだった。
だが、勝利はまだ遠い。カウントは2で止まり、EVILのセコンドに就く「HOUSE OF TORTURE」のメンバーの介入が再び入る。悪の王者の執念が、デビュー戦戴冠を拒むかに見えた。