プラトニック・ラブの本当の意味
ソクラテスの思想は弟子のプラトンを通じて伝えられ、彼の思想を継承しつつ、プラトンは独自の哲学体系を築いた。
「己れ自身の力量によらず、先祖の名声によりて尊敬をあたえて、甘受する以上に恥ずべきことなし」
「偉大な人物たらんとする者は、自分自身や自分に属するものをではなく、正しいことをこそ愛すべきなのだ」
こうした哲学をもったプラトンは若い頃、筋骨隆々なレスリングの選手として活躍していた。
本名はアリストクレスといったが、肩幅が広くて立派な体格という意味のニックネーム「プラトン」と呼ばれていた。
「世界中で最も美しいのは17、18歳の若者に、真裸で格闘技を行わせることだ」
「栄えある寵童をもつほど大いなる恵みはあるまい」
このように語る美少年好きのプラトンは、若者盛りを貪る恍惚観を自身の哲学に反映させている。
終生独身を保ったプラトンは、最晩年には「美少年に介抱されながら、安らかに息を引き取りたい」と切望したという。
プラトニック・ラブとは、「プラトン的な愛」という意味で、プラトンの名が冠されているが、元々は男性同士の気高い情愛関係を指した言葉である。
その真意とは、自らの意思を神性への愛に向けることで、人の意思と魂に霊感をもたらし、意識が霊的対象へと向かうことで、黙想へと上昇する。そして、美しさは認知から考察へと進み、純粋な愛は美の源泉である神性の愛へと至るというものである。
だが、後世におけるプラトニック・ラブは、好き合った男女が結婚まで純潔を保つべきという肉欲を抑えた精神的な異性愛という意味に変容している。
エロス(愛)は欠乏から生じる
ギリシア神話によれば神エロスは、古代において最も重要な神々の一柱であり、世界を創造した三柱の神々の一柱であった。
エロスはやがて欲望、愛と性行為の神となり、親しみ、静けさ、平和を導き、好意、歓喜、華麗、優雅、憧憬、そして欲求を誘発する。
ソクラテスは、エロスの性質は「あるもの」へと向かう欲求であり、「あるもの」とは、自分が保持しないもの、自分に欠落しているものを求める、それは人間を突き動かす最大の源泉と明言する。
そして、「エロス(愛)は欠乏と富裕から生まれる」「愛は自身の存在を永続的なものにしようとする欲求であり、生産欲である性欲を持つ男性は、その対象が婦人に向かい、生殖・懐胎・出産を委ねる」「生殖の欲求は、神的な性質を備え、生の永続性を欲求する」と言った。
このような生産的な性質をもつ愛の目的は、物質的な肉体の継承のみならず、魂や精神性の再生といった存在性の永劫的なることを求めることだ、というのだ。
エロス(愛)は人間のみ存在するものではなく、その他あらゆる事物の内に存在しているとソクラテスは明示している。