戦車350台時代の陸上自衛隊、島嶼防衛への転換
陸上自衛隊の隊員数は約15万人で、冷戦期は戦車を1000台以上保有する「重厚長大」型だったが、冷戦終結後は中国の軍事的脅威に対応するため、即応性に富む「軽薄短小」編成へと肉体改造した。
陸戦の要である戦車は、現在約350台(10式約110台、90式約240台)を保有する。一方の中国は約4700台を持つが、海に隔てられているため、あまり脅威とはならない。
陸自が装備する10式、90式両戦車とも国産で、西側標準の120mm戦車砲を備える。中国戦車の125mm戦車砲の威力と同レベルだ。
2010年から着々と増強される10式は、南北に細長い列島で平野が少なく、大半が山地という戦車には不向きな国土に合わせた小型・軽量の設計が特徴である。
総重量50トンとヘビー級で小回りが利かない1世代前の90式(1990年に導入開始)と寸法的には大差ないが、総重量は約44トンに抑えられている。世界の主力戦車(MBT)の中でも最軽量クラスで、総重量70トンに迫るM1(米)やレオパルト2(独)の最新版と比べて20トン以上も軽い。
軽量さがウリの10式戦車(写真:陸上自衛隊ウェブサイトより)
90式戦車。総重量50トンのヘビー級(写真:陸上自衛隊ウェブサイトより)
10式の設計思想は、今後は正規軍との激突よりも、国際テロ組織や特殊部隊(コマンド)との対決の方が可能性は高いと判断し、狭い島でも運用しやすいように軽量で輸送が楽なことを目指した。
高性能の射撃統制装置(FCS)を採用し、味方の戦車とライブで情報交換が可能になるなど、戦闘を有利に進められるC4I(指揮、統制、通信、コンピュータ、情報の要素を統合した情報システム)を、世界で初めて開発段階から導入したことも特筆すべき点だ。
2025年に陸自は海上自衛隊と共同で「自衛隊海上輸送群」を創設した。小型級輸送艦「にほんばれ」(積載能力数百トン)と、中型級輸送艦「ようこう」(同千数百トン)の2種(現在4隻が就役)で、多数の10式を一度に輸送できる。
事実上、陸上自衛隊が運営する輸送艦「にほんばれ」型3番艦「あおぞら」(写真:陸上自衛隊facebookより)
この陸自主体の「輸送艦隊」により、海自との事前調整や手続きなどが相当省略でき、10式が南西諸島に展開するまでの時間も大幅に短縮される。
また、陸上自衛隊は戦車大幅削減の事実上の「穴埋め」として、国産の8輪“装輪戦車”16式機動戦闘車(16MCV)を2016年から導入している。
“装輪戦車”とあだ名される16式機動戦闘車(写真:陸上自衛隊ウェブサイトより)
16MCVは105mm戦車砲を持ち、装軌(キャタピラ)に代わり軽快なタイヤを履き、時速100kmで疾走する「韋駄天の助っ人」として期待される。総重量26トンと軽く、航空自衛隊の国産C-2輸送機で1台を空輸できる(空自の輸送機では10式は空輸不可能)。
俊足を活かし、戦車に先んじて戦場に急行。味方部隊に加勢して戦車部隊の来援までの時間稼ぎをするのが主任務だ。
このほか、「12式地対艦誘導弾」の能力向上型にも注目で、中国にとってはこれが最も気掛かりだろう。敵の射程外から攻撃可能な「スタンドオフ兵器」の代表で、トラックに搭載した発射機で運用する。射程200kmの「12式」をベースに、射程を1000~1500kmに大幅延伸。ステルス性も合わせ、これまでのように艦船への攻撃はもちろん、中国大陸の内陸部も射程に収める。
12式地対艦誘導弾。改良型は射程1000kmを誇る(写真:陸上自衛隊ウェブサイトより)
また海上自衛隊の護衛艦や潜水艦に搭載の水中発射型、空自の戦闘機からの空中発射型なども視野に入れている。