強大な力を持つ福音派ロビイスト団体

──今のアメリカの若者たちが、人工妊娠中絶や同性婚をあらためて批判的に論じるのは、保守的な親に倣ってのことですか?

加藤:むしろ若い人たちの運動を通して広がっている変化だと思います。世論調査を見ると、自らの意志で教会に通い始めるZ世代の動きが見られますが、その大部分は保守的な教会です。カリスマ派やペンテコステ派などがその半分で、もう半分が保守的なカトリックです。反人工妊娠中絶も反同性婚も、そうした場で新しい思想として保守的に理論武装されるのです。

 日本の神道系のグループの中にも、同性婚や夫婦別姓の問題意識がありますが、神道系グループの勉強会で福音派のテキストが使われることがあります。グローバルにつながる保守ネットワークもあり、アメリカの宗教保守が羨望の眼差しを向けるハンガリーのオルバーン・ヴィクトル政権やロシア正教などもこうした保守的な政策を進めようとしています。

──ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ、ドナルド・トランプと福音派は思想が相反する歴代大統領たちに、それぞれ異なる理由から寄り添ってきたことが本書からうかがえます。なぜこのようなことが可能なのですか?

加藤:大統領側は支援がほしいので、大票田である福音派の支持がほしい。福音派の側も自分たちの要求を政策に反映させてほしい。相互に歩み寄っているのです。

 そうした中で重要なのは、福音派のロビイスト団体が非常に大きな力を持っているということです。最も有名なのは、南部パブティスト連盟所属の牧師ジェリー・ファルエルが立ち上げたロビー活動団体「モラル・マジョリティ」です。

 それ以降も、福音派の原理主義者たちは自分たちのロビイスト団体を持ち政治家を支援しています。新しくて有名なものに、元キリスト教連合事務局長のラルフ・リードが統括する「信仰と自由の連合(FFC)」などもあります。

 こうしたロビー団体は献金ばかりではなく、全米に数多くいる福音派のキリスト教信者を使って、ボランティア活動などでも選挙を応援します。アメリカの選挙は郡(カウンティー)の単位なので、要所に人を送り込み熱心に選挙活動をしています。

 ちなみに、トランプ氏が大統領選で勝利して第二次トランプ政権が発足すると、見返りとしてトランプ政権はホワイトハウス内部に信仰局を設立しました。福音派の影響力をホワイトハウス内部にも浸透させようとしているのです。

──牧師のビリー・グラハムについてページが割かれています。彼こそが、福音派をより現代的に一般的なものに押し上げた人物であるという印象を受けました。

加藤:そうですね。1920年代から1940年代までは、福音派が原理主義者として、社会の隅っこに追いやられていた時代です。しかし彼らは、ラジオを通して大衆にアピールすることがとても上手でした。当時はまだラジオの草創期でしたから、規制も少なく自由に番組を流すことができました。

 この流れに危機感を覚えた主流派が、ワシントンの自分たちのロビイスト団体を使い、放送法を理由に福音派のラジオ放送をやめさせようとしたこともあります。