井上尚弥選手(写真:山口フィニート裕朗/アフロ)
(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)
12月27日、ボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥選手(大橋)や元世界バンタム級2団体王者の中谷潤人選手(M・T)らが出場する「リヤド・シーズン THE RING V:NIGHT OF THE SAMURAI(ナイト・オブ・ザ・サムライ)」が、サウジアラビアの首都リヤドで開幕する。
潤沢なオイルマネーを背景に、エンターテインメントの世界への進出に積極的なサウジアラビアには今回の興行に合わせ、日本のスポーツ関係者もビジネスチャンスをうかがって現地入りしている。関係者によれば、井上選手ら日本人ボクサーのリアルな人気や評価は本格上昇する“夜明け前”の状態。それゆえに、「今回の興行の成否が将来的なビッグビジネスへの引き金になる」と熱い視線が注がれている。
オイルマネーが日本にとってビッグチャンスに
「いまがビジネスチャンス。日本人ボクサーの評価は、この興行をきっかけに大きく跳ねる可能性がある。乗り遅れるわけにはいかないですね」
こう話すのは、中谷選手と専属マネジメント契約を結ぶ「スポーツバックス」(東京都)の澤井芳信社長だ。
同社は元メジャーリーガーの上原浩治氏や、現役メジャーの鈴木誠也選手(カブス)ら野球関係を中心にマネジメントの実績を伸ばしてきたが、ボクシングでは、中谷選手のサポートが初めてだ。今回はイベントの前から現地へ社員を派遣し、様々な業界の関係者とのネットワーク構築に力を入れている。
サウジアラビアのオイルマネーが日本のボクシング界に衝撃を与えたのは、井上選手が24年11月に締結した世界最大級のエンターテインメントイベント「リヤド・シーズン」とのスポンサーシップ契約の金額だ。試合で着用するトランクスのベルト位置に「リヤド・シーズン」のロゴが入るなど、アンバサダーとしての活動の対価は、複数年で推定総額30億円と報じられた。
「リヤド・シーズン」は2019年から毎年秋から春にかけて開催。スポーツだけでなく、音楽やアート、映画、ゲームなどの多彩なジャンルによる祭典で、世界各国から来場者を迎え入れる。日本貿易振興機構(JETRO)の12月18日付記事によれば、サウジアラビア娯楽庁は今年10月の25年シーズンの開幕以来、すでに800万人以上が来場し、135カ国以上から2000万人を超える来場者を見込んでいるという。
オイルマネーで潤うサウジアラビアだが、近年は脱石油依存の経済発展を目指し、政府主導の投資によって、娯楽やエンタメ、観光などの産業に力を入れる。柱の一つが、スポーツへの巨額の投資と興行の実現だ。