移転を成功に導く五つのポイント

 事例企業の取り組みから、移転を成功させるためのポイントを考えたい。

①目的を明確に

 一つ目は、移転の目的を明確にすることである。あいまいな意思決定では社内が一枚岩となれず、成果を得られない可能性がある。企業が移転するというのは大きな労力を必要とするものである。

 デキタで代表取締役を務める時岡壮太さんには、自分の力でまちづくりを推進したいという目的があった。こうした思いがあったからこそ、移転先で地元の住民に受け入れてもらうことができたし、さまざまな経歴をもつメンバーを迎え入れることができた。

 クオリティソフトは従業員同士や地域との交流から新たなビジネスのアイデアを生み出す目的を明確にしている。コミュニケーションを促進するための「MagicaBlanca」(マジカブランカ)というシステムや、起業を体験するイベント、ひきこもり経験者に参加してもらい新ビジネスを考える「ひきこもりハッカソン」などはその手段として機能している。その結果、飲食事業やドローン事業などITの枠にとどまらない事業が誕生している。

②立地の強みを生かす

 二つ目は立地の強みを生かすことだ。移転先で持続的に成長していくためには欠かせない視点である。

 クオリティソフトは約1万8000坪の自然豊かな広大な土地を生かして、新たなビジネスを開始している。

 一つはドローンソリューション事業である。広大な土地を生かして一般社団法人日本UAS産業振興協議会の認定操縦技能・安全運航管理者コースを提供している。また、外資系IT 企業とともに、敷地内にクラウドやAI を学ぶ研修施設をつくる計画を進めている。国内外からたくさんの人を呼び込むつもりだそうだ。

 デキタは地元をよく知る若狭町熊川宿の婦人会のメンバーをパートタイマーとして雇い、宿泊客への食事の提供を担当してもらっている。利用者からは、熊川宿での暮らしぶりを体感できると好評を得ている。

③従業員の活躍の場をつくる

 三つ目は従業員の成長機会をつくることである。

 先述のとおり、クオリティソフトは園芸に詳しい人や、木製の雑貨をつくるのが得意な人などを採用し、それぞれの得意分野を生かした事業の立ち上げを促している。活躍の場を自らつくり、自分らしいキャリアを積めるとなれば働く意欲は高まるし、組織の活性化にもつながる。

 デキタは2022年に食品製造業に参入した。若狭町で栽培している山内かぶらや、熊川宿に自生する熊川葛(くまがわくず)を使った茶葉など、オリジナル商品をつくっている。同社では8人の正社員、15人のパート従業員が中心となって、地域資源のフル活用にチャレンジしている。

熊川葛などを使ったオリジナル商品

 従業員に新たな成長機会を提供したり、キャリアプランを示したりすることは、移転を成功に導くうえで重要といえる。