AIを使わないリスクを認識した行政

 行政がその方法を選んだ意味は小さくありません。

 行政は、失敗が許されにくい組織です。そのため、これまでAI活用には慎重にならざるを得ませんでした。

 しかし、慎重であることと、動かないことは違います。

 今回の方針は、リスクを管理しながら前に進むという判断だと受け取れます。AIを使わないことによるリスクも、同時に認識し始めたということです。

 ここに、国家としての覚悟がにじみ出ていると私は見ます。

 さらに政府は、国際的なAIサミットを日本で開催する構想も示しているのです。狙いは、モデル性能や計算資源の競争ではありません。

 ルール形成と社会実装を主導することです。

 欧米と中国が技術覇権を競う中で、日本は別の役割を選びました。それが、制度設計と現場運用のすり合わせです。

 行政、企業、自治体はこれまで、それぞれが密接に関わって社会を動かしてきました。その過程では必ず摩擦が生じます。その摩擦を吸収しつつ昇華させてきた様々な経験が私たちにはあります。

 AIを社会に実装する際も全く同じです。非常に大きな変革を伴うAIの導入では必ず摩擦が生じます。その摩擦をどう吸収し、どう調整するかが実は最も大きな課題なのです。

 日本は、その実務的な知見を国際ルールに生かそうとしています。

 この国家戦略は、企業や自治体にとって他人事ではありません。行政がAI前提で動く以上、民間も同じ前提に立たされます。

 AIは検討対象ではなく、前提条件になりつつあるのです。影響は、すでに具体化し始めています。