デジタル庁が生成AIを全庁展開

 そこに、これまでのAI政策との明確な違いがあります。象徴的なのが、デジタル庁が主導する生成AIの全庁展開でしょう。

 政府は、同庁が整備した生成AI環境を、官公庁職員に広く提供する計画を進めています。

 一部の実証実験ではなく、日常業務での利用を前提とした展開です。対象は中央省庁だけに限られません。

 地方出先機関を含め、行政実務の現場全体が射程に入っています。この点は、これまでのIT導入とは性格が異なります。

 想定されている生成AIの役割は、単なる文書作成支援ではありません。過去の政策資料や国会答弁、法令解釈を参照しながら、政策案のたたき台を作ることも想定しています。

 複数の選択肢を提示し、論点を整理するのです。官僚の思考プロセスそのものを補助する存在として位置付けられています。

 これは、行政の意思決定プロセスをAI前提で再設計することを意味するのです。単なる業務効率化とは、次元が異なります。

 ここで重要なのは、日本のAI政策の順序が変わった点です。

 これまで日本では、倫理指針やガイドラインの整備が先行してきました。安全性を重視する姿勢は重要ですが、現場で使われないAIも多く生まれたのです。

 使われないままでは、課題も改善点も見えてきません。

 今回の方針では、まず官僚が使うことを前提に置かれています。実務の中で問題を洗い出し、その結果を制度や運用に反映させる流れです。

 この進め方は、IT導入の現場では成功確率が高いとされています。完璧な設計を目指すより、使いながら直す方が現実に合うからです。