ロシアがウクライナの領土保全を含む合意を受け入れる可能性は低い

 トランプ氏はウクライナ多国籍軍に地上軍を派遣しないと明言しているものの、米国の衛星や通信傍受による情報をウクライナに提供し続けることに加え、空域のパトロールと飛行禁止区域の実施を提案している。欧州当局者は2日間の会談を終えて感銘を受けた(NYT紙)。

 しかしクレムリンはウクライナに信頼できる安全保障の保証を提供するいかなる和平案も拒否することを示唆しており、ウクライナの領土保全を守る条項を含む合意を受け入れる可能性は低い。さらにプーチン氏はゼレンスキー氏との会談を一貫して拒否してきた。

プーチン大統領(写真:Gavriil Grigorov/TASS via ZUMA Press/共同通信イメージズ)

 米シンクタンク「戦争研究所」によると、ロシアは2014年以来ウクライナ防衛の要であるドネツク州の「要塞ベルト」を奪取しようとしてきた。しかし要塞ベルトを明け渡せばロシアは将来、ウクライナ南西部および中部に対して再び侵略を行うより有利な足場を得ることになる。

 戦争研究所は「ロシアはウクライナ全土を掌握するという目標を達成するため政治的・軍事的手段を行使する。中長期的な未来においてロシアによるウクライナの完全な支配を認めない和平協定や安全保障の保証を受け入れる可能性は低い」と分析している。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。