メルケル時代の「黄金の16年間」の実態

 下の図表はユーロ加盟国の実質GDPの水準に関し、現在とパンデミック直前(2019年10~12月期)を比較したものだ。ドイツだけがほとんど成長していないことが分かる(小数点第三位まで取れば1.001)。

 グローバル製薬企業が拠点を構えるアイルランドがワクチンや医薬品などの輸出で急激に押し上げられた例はともかく、ユーロ圏全体ではパンデミック直前対比で+6%程度、そのほかの加盟国も+6~10%の伸びが実現している。ユーロ圏においてドイツがいかに特異な状態に置かれているかが分かる。

 なお、前ページの鉱工業生産の図表において2005年を基準(100)としているのはメルケル政権のスタートに合わせたためだ。

 メルケル時代にロシアから安価な天然ガス調達を進め、最大の得意先である中国に自動車を中心として輸出を加速させてきた結果、鉱工業生産の水準は2017年には2005年対比で+20%増を果たした。

 労働市場もその好影響は明確に出ており、メルケル政権の16年間において、失業率の上昇を経験した年はリーマンショック翌年の2019年(前年比+0.4%ポイント)、欧州債務危機ピーク時の2012年(同+0.1%ポイント)、パンデミック初年度の2020年(同+1.1%ポイント)の3回だけだった(以下の図表)。

 就任時の2005年から退任時の2021年にかけて失業率は11.3%から5.2%へ半分以下となっており、政治手法に毀誉褒貶はあったものの、経済面では間違いなく黄金の16年間だったと言えるだろう。