高市早苗首相の発言をきっかけに中国が強く反発し、「制裁ラッシュ」が続いています。緊張は長期化し、「落としどころはあるのか」と国際社会でも注目が高まっています。出口の見えない「日中冷戦」の中で、日本はどのように向き合い、何ができるのか。中国ルポライターの安田峰俊氏が、台湾出身で東アジア情勢に詳しい東洋経済記者・劉彦甫氏と議論しました。3回に分けてお届けします。
※JBpressのYouTube番組「安田峰俊のディープアジア観測局」での対談内容の一部を書き起こしたものです。詳細はYouTubeでご覧ください。(収録日:2025年12月3日)
出口の見えない日中冷戦
安田峰俊氏(以下、敬称略):今回の日中対立を巡り「落としどころがあるのか」という質問をよく受けます。「向こうが飽きるまで続く」と私は答えていますが、劉さんはどう考えていますか。
劉彦甫氏(以下、敬称略):私も明快に落としどころは「ない」と答えています。
中国側が戦略的に何かを設計して動いているわけではなく、発言が起きてトップが怒ったため、現場が「とにかくできることをやる」という形で動いているだけだからです。
結局はトップの腹の虫がおさまるのを待つしかありません。もしトップがさらにエスカレートし、トップしか決められないレベルの制裁へ踏み込んだ場合は、日中関係は非常に深刻化します。ただし現状はそこまでには至っていません。
日本としては、冷静に、淡々と、余計なことは言わず、従来の政府方針が変わっていないことを示しつつ、一方的に緊張を高めているのは中国側だという事実を国際社会に丁寧に説明し続けるしかありません。
安田:日本政府が中国政府と対話するのは困難を極めると思います。そもそも自国の「上」しか見ていない中国側に対話する気がないわけですから。
一方、民間交流は重要です。中国の旅行自粛ムードの中でも日本に来る観光客は、比較的自由な思考の人たちですから、大事にしてできるだけ日本に良い印象を持って帰ってもらうべきです。彼らに日本人が嫌がらせをしたりすると、しっかり中国側の宣伝材料になってしまいますし。
また、逆に一般の日本人が中国へ行くことも萎縮しすぎなくて良いと思います。普段以上に、政治的な話をしない、軍や公安の関連施設の撮影などをしないといった用心は必要ですが。