大幅な賃上げは非現実的、ではどうする?

 こうした過度なリスクをとらずに個人消費を増やしていくには、「国がやたらと財政資金を出さずとも家計の実質所得が改善する」道筋を模索することが必要である。この点で最もストレートな道は、企業がもっと大幅な賃上げをすることである。

 ただし、この道はあまり現実的ではないかもしれない。この数年のインフレ・賃上げサイクルを経て判明したことは、企業は「インフレ分以上に賃金を上げる気はない」ということである(一部の有識者は「実質ゼロベア・ノルム」と表現している)。

 少なくとも大企業の労働分配率はこの数年でかなり下がったので、その意味で賃上げ余力は相当あるはずだが、実質賃金が持続的にプラスになるほど賃上げする気はないらしい。家計としては腹立たしいことだが、結局のところ賃金を決めるのは企業だし、怒ったところで何も解決はしない(企業を動かすには、転職がもっと大幅に増える必要があると思う)。

 企業は従業員への還元には消極的だが、株主への還元には極めて積極的である。企業の粗利益分配(※粗利益=売上高-売上原価)をみると、従業員への還元はダウントレンドにあるのに対し、株主への還元は右肩上がりである(図表3)。

■図表3:企業の粗利益分配(出所:財務省)

図表3:企業の粗利益分配(出所:財務省)図表3:企業の粗利益分配(出所:財務省)

 つまり、企業の利益をしっかり回収するためには、従業員でいるだけではダメで、株主となることが重要である。要するに、資産運用をしっかりやりましょうということだ。

 新NISAなどを契機に何度目かの投資ブームが起きており、株高による含み益も込みで家計のリスク資産シフトは一応進んでいるが、家計金融資産は今なお現預金偏重である(図表4)。もちろん金利がある程度高ければ現預金偏重でも構わないわけだが、日銀の低金利政策継続を背景に預金金利は今なお低水準である。

■図表4:家計金融資産の内訳(出所:日本銀行)

図表4:家計金融資産の内訳(出所:日本銀行)図表4:家計金融資産の内訳(出所:日本銀行)

 それにもかかわらず現預金偏重が続いているため、可処分所得を構成する要素の1つである財産所得の伸びが抑制されている。これが可処分所得全体や消費の伸びの鈍さの一因になっている。