物価高対策や税・社会負担軽減は「負担の付け替え」

 名目可処分所得があまり増えていない点については、高齢化などに伴う現役世代の税負担・社会負担の増大が問題視されることが多い(図表2の「名目雇用者報酬」と「名目可処分所得」の差がそれに対応する)。だからこそ「減税and/or社会負担軽減で手取りを増やそう」という呼びかけは大きな支持・共感を呼ぶ。

 また、「名目」と「実質」の差であるインフレが問題視されることも多い(図表2の「名目可処分所得」と「実質可処分所得」の差がそれに対応する)。だからこそ、「物価高対策が必要」という呼びかけも大きな支持・共感を呼ぶ。

 こうした状況を踏まえれば、11月下旬に閣議決定された経済対策も含め、物価高対策や税負担・社会負担軽減に関する政策論議が続いていることは「民意」の反映と言える。ただ、財政資金による物価高対策は所詮一時しのぎでしかない。税負担・社会負担の低減も「財政収支等の帳尻を最終的にどう合わせていくのか」という議論を避けて通れず、その意味で本質は「負担の付け替え」である。

 こうした財政資金を使った対策が「一時的」ではなく「永続的」になってしまうと、当然ながら財政運営に負荷がかかる。財政運営への信認低下が生じれば、金融市場では円売り(円安)・債券売り(金利上昇)につながる。円安はインフレ要因になるし、金利上昇は負債のある主体(政府、企業、住宅ローン保有家計)にとっては負担増要因になる。

 つまり、結局誰かに皺が寄るという意味で「負担の付け替え」に過ぎないし、金融市場は有権者ほど優しくないので、隙を見せれば容赦なく襲い掛かってくる。この点、短期的に積極財政を進めるにしても、長期的には帳尻を合わせるというスタンスは維持せざるを得ない。そうしなければ、どこかで金融市場が牙をむいてくるリスクに怯えながら生きていかざるを得なくなる。