2025年末のいま、この本を手に取るべき意義

 2025年の冬。トランプの再登板と仮想通貨市場の混乱を前に、私たちは再び「何を信じればいいのか」という問いに直面している。

 マイケル・ルイスが『1兆円を盗んだ男』で描いたのは、単なる金融スキャンダルの記録ではない。それは「社会的な常識や感情を持たない人間が、資本主義のバグを突いたときに何が起きるか」という、一種の(意図せず行われた)実験の記録だ。

 SBFは、私たちが信じている「お金」や「価値」、そして「政治」がいかに脆い基盤の上に成り立っているかを暴いた。ボロボロのカーゴパンツ姿で世界中の権力者を魅了し、数兆円を動かし、すべてを失った。しかし彼が残した「ドラゴンの財宝」は、皮肉にも被害者を救済し、弁護士たちを潤わせている。

 トランプ、CZ、SBF。彼らは皆、同じゲームのプレイヤーだ。そのゲームのルールを知る者だけが、次の崩壊を予見できる。その意味で本書は、2026年という新しい年に向け、仮想通貨市場が今後どう進むのかを改めて考える際に、必読の書と言えるだろう。

 本書を読み終えたとき、あなたはSBFを憎むかもしれないし、憐れむかもしれない。あるいは、彼の中に現代社会のひずみを見出すかもしれない。

 マイケル・ルイス自身、「読者を特定の結論へ誘導するのが自分の役目だとは思っていない。むしろその逆で、物語に『穴』を通し、読み手はそこを通りながら、それぞれが違った感想を抱いてくれることを望んできた」と述べている。

 問題はSBFにあったのか、他の誰かの陰謀によるものなのか、はたまた仮想通貨という未熟な業界の構造にあるのか。ぜひ皆さん自身で、それぞれの感想を見出してほしい。

小林 啓倫(こばやし・あきひと)
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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