連れ去りの衝撃映像とフリーランス記者・西岡千史さんの解説、孫の直子さん(仮名)の証言はYouTubeチャンネル「INNOCHAN」でご覧ください。後編は12/9に公開予定。チャンネル登録もお願いします。
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 今年3月に江東区で起きた「高齢者連れ去り」事件。97歳の武田和子さんが突然アパートに乗り込んできた警察官らに連れ去られ、それ以来消息が途絶えています。事件を取材してきたフロントラインプレス所属のフリーランス記者、西岡千史氏は「全国でも同様の事件が起きている」と指摘します。

 事件の真相を探るYouTube新番組「ニュースの現場」では、記者の西岡千史氏と被害者の孫で当日現場に居合わせた「後藤直子さん(仮名)」に話を聞きました。それぞれの証言から、自治体への不信、警察官による強引な家宅侵入の瞬間映像、その後の不可解な行政手続きまで事件の真相を追いました。2回に分けてお届けします。

※JBpress公式YouTube新番組「ニュースの現場」での内容の一部を書き起こしたものです。詳細な全編はYouTubeでご覧ください。(収録日:2025年10月29日)

「通帳預かりサービス」への不信感

益田美樹・ジャーナリスト(以下、敬称略):今年3月に警察官らが江東区に住んでいた97歳の女性・武田和子さん宅に突然押し入り、連れ去るという衝撃的な事件が起きたということですが、経緯を教えてください。

西岡千史・フリーランス記者(以下、敬称略):もとは、一昨年夏ごろに江東区社会福祉協議会が武田和子さんに「通帳預かりサービス」の利用をたびたび提案してきたのが始まりです。足が不自由な和子さんに代わって社協が通帳を預かり、必要に応じてお金を引き出して本人に渡す仕組みです。和子さんは押されるようにこのサービスを契約したために、自分の通帳を自由に使えなくなり、大きな不満を抱えるようになりました。

連れ去られた武田和子さん(当時97歳)。背景は住んでいた江東区のアパート

 さらにその頃から、さまざまな人が武田さん宅を頻繁に訪れるようになったといい、時には本人の許可なしに鍵を開けて入ってくることもあったようです。こうした事態に和子さんは不安を感じ、サービスの解約を求めるようになりました。解約は難航しましたが、家族とともに何度も足を運んだ結果、今年3月7日にようやく認められました。

 しかし、武田さんはサービスを解約したことで「自分が連れ去られるかもしれない」と強い危機感を抱くようになったと言います。そしてその6日後、複数の警察官が武田さん宅の鍵を破壊して侵入し、武田さんを任意同行していきました。

警察署へ任意同行された後、姿を消す

益田:連れ去りの当日、現場では何が起きたのでしょうか。

西岡:当日、和子さん宅に複数人の警察官が訪れ、鍵を壊して侵入しました。孫の直子さん(仮名)が当時の様子を動画で撮影しています。

武田和子さんの孫・後藤直子さん(仮名):おばあちゃんも私たちも何が起きているのかわからず、とにかく恐怖で胸がいっぱいでした。

 ただ、数日前から社会福祉協議会との解約を巡り不審なことが続いていて、おばあちゃん自身も「私の身が狙われている」と繰り返し言っていたんです。戦時中の体験があるので「ここにいるってわからないように」と、電気を消し、ランプの傘にもタオルを巻いて光が漏れないようにしておくよう私に指示しました。

 撮影した動画は、その暗がりの中に突然ドアが壊されて光が差し込み、警察官が慌ただしく侵入してきた様子です。おばあちゃんのその言葉通り、本当に怖い人たちに狙われているのだと確信しました。

西岡:「高齢者虐待防止法」では、自治体職員に立入調査権限があるものの、住居の鍵を破壊してまで入り込むことは認められていません。厚生労働省のマニュアルにも、立入調査を行う際には、鍵を壊すなどの強制的手段による立入りは許容されないことが明記されています。

 また、一般的に警察による家宅捜索でも裁判所の発行する令状が必要ですが、この現場では誰一人として令状を見ていませんでした。つまり、今回の件は、何の法律に基づいて自宅に入られたのか分からない状態です。

益田:手続き上も大きな問題があったということですね。その後、何が起きたのですか。

直子さん:警察官らに鍵を壊されて、10人ほどが家に押し入り、パシャパシャと写真を撮っていました。その間、救急隊員も4、5人来ておばあちゃんの体調を確認し「大丈夫ですね」と言い、隊員の方は出ていかれました。

 その後、警察官を名乗る人から「署に来てください」と言われ、おばあちゃんと私たちは外出準備をさせられました。正直、最初は本当に警察なのかと疑っていましたが、車で実際に警察署に着いたので、変なところに誘拐されるわけではないのだと分かり、少しだけ安心したのを覚えています。