「休み方」を教えるには、まず大人が変わらなければならない

──日本人が、「休み方」を教える、学ぶ際に、何が課題となりますか。

保坂:一番大きいのは、教える側である教員自身が「休み方」を知らないことです。教員が休めないのに、生徒に休み方を教えることはできません。

 また、日本には病気休暇のない企業が多く、病気になっても年休(有給休暇)を使わなければならない職場が一般的です。本来であれば、これは「理不尽な」ことです。にもかかわらず、多くの人がそれを当然だと思っています。

 視野を広げれば、「他の会社には病気休暇があるのに、うちの会社にはない」ということに気付けると思います。「理不尽」=「おかしい」と認識することが大切です。

 そして、おかしいと思ったら交渉しましょう。労使交渉で病気休暇を獲得することは可能なはずです。昨今の社会の風潮では、賃金交渉だけが注目され、労働環境を改善する交渉が不足しているように感じます。

 日本では、1990年代まで電車でベビーカーを畳んでいましたが、声をあげた市民の働きかけで状況は変わりました。おかしいと思ったらまず声に出すことが大切です。少しでも自分に関わる環境について、声を上げて変えていこうとする姿勢が求められています。

 日本の学校教育や社会全体が子どもや若者の声を聞こうという方向に向かいつつある今こそ、学校で「休むこと」をきちんと学び、「大人」になる18歳までに自分で休む判断ができるようになるべきだと思います。

保坂 亨(ほさか・とおる)
千葉大学名誉教授/同大教育学部グランドフェロー
1956年、東京生まれ。東京大学教育学部助手(学生相談所専任相談員)、千葉大学教授などを経て現職。著書に『学校を欠席する子どもたち』『学校と日本社会と「休むこと」』(いずれも、東京大学出版会)、『学校を長期欠席する子どもたち』(明石書店)など多数。

関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。