日本の教育現場はギフテッドの才能を伸ばすことができるか(写真:Paylessimages/イメージマート)
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 才能を伸ばすのか、平均に合わせるのか──。昨今、一部の教育現場で話題になる「ギフテッド教育」。日本では支援の仕組みはおろか、その必要性が十分に理解されているとは言い難い状況だ。

 一方で、2025年9月5日、中央教育審議会がまとめた次期学習指導要領の方向性に、「ギフテッド傾向のある」児童生徒への個別支援が盛り込まれた。文部科学省の取り組み、海外の事例、そして現場の課題について、石田祥代氏(千葉大学教育学部教授)に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──「ギフテッド」という言葉には、いくつかの解釈があると聞きました

石田祥代氏(以下、石田):昨今、マスコミが取り上げている「ギフテッド」という言葉を文部科学省の用語に置き換えると、「特定分野に得意な才能のある児童生徒」となります。

 複雑なのは、相談を受けてきた教育者やカウンセラー、医師の間でのギフテッドの解釈と、一般的なイメージの間にずれがあることです。

 特別支援教育を専門とする教育者などが想定するギフテッドは、勉強はできるけれども学校生活でバランスを取ることが難しい子どもたちです。一方、メディアやギフテッド教育に取り組む企業などがギフテッドという言葉を使うときは「天才児」という文脈で使われることがほとんどです。

 従来の天才児のイメージと区別する目的で、私たち研究者や一部の教育者は、最近「知的ギフテッド」という言葉を暫定的に使い始めています。

──天才児と区別される知的ギフテッドとは、どのような子どもたちなのでしょうか。

石田:端的に言うと、ギフテッド傾向がみられ、学校での支援が必要な子どもたちです。中には、「2E(Twice Exceptional)」と呼ばれる子どもたちも含まれます。発達障害の傾向があり、かつ数学やプログラミングなど特定分野でたぐいまれな才能を有している子どもたちです。

 ただ、ギフテッドは自閉症のように、DSM(精神疾患の診断マニュアル)に基づく診断名ではありません。少なくとも日本では「ギフテッド」と医師や教育者、研究者が診断を下すことはありません。

 そのため、現在は「特定分野に得意な才能のある児童生徒」は「ギフテッド傾向がある」と言われるにとどまっています。明確な基準は存在していません。

 日本で「ギフテッド傾向がある」と言う場合、おおむねIQ120から130以上の子どもたちを想定しています。ただし、IQは発達障害などを併発している場合、数値が低く出ることもあります。したがって、家庭や学校での様子を綿密に聴取して、ギフテッド傾向の有無を見いだすことが求められます。