なぜ最先端技術とアダルトが結びつくのか(写真:Funstock/shutterstock)
下ネタというと、やれ低俗だ、セクハラだと切り捨てられがちなトピックである。しかし、下ネタを掘り下げていくと驚くほど知的な世界が広がっている。そう語るのは、堀元見氏(作家・YouTuber)だ。
最先端技術とアダルト産業のかかわりとその危険性から、中世ヨーロッパから現代にまで続く母乳信仰まで、『読むだけでグングン頭が良くなる下ネタ大全』(新潮社)を上梓した堀元氏に、話を聞いた。(聞き手:ライター&ビデオクリエイター)
──最先端の技術は「軍事」と「アダルト」に集うとありました。なぜ最先端技術とアダルトが結びつくのでしょうか。
堀元見氏(以下、堀元):僕にとっては自明のことなので、むしろ意外な質問に感じます。
米国のプレイボーイのサイトを見るために日本でインターネットが普及したという話や、高画質なエッチなコンテンツを見るためにDVDが広まったなどという都市伝説的な逸話は有名です。DVDに関しては「エッチな映像を見たいから買う」とは言いにくいため、当時はプレイステーション2を購入して「建前」を作った人も多かったそうです。
最先端技術とアダルトが結びつく理由は、大きく2つあると考えています。
まずは「秘匿性」です。書籍にも書きましたが、その典型例が仮想通貨でしょう。怪しいアダルト系のウェブサービスの多くは決済手段として仮想通貨を採用しています。払った側はサービスを利用した形跡を誰にも知られたくない。支払いを受ける運営側も、金銭のやり取りの痕跡を残したくない。
限りなくこっそりやっているアダルト系のサービスは、無法地帯にならざるを得ません。そのために、秘匿性を高めて追跡されにくい最新の技術を先んじて導入するのです。法整備が追いついていない技術にこそニーズがある、というわけです。
もう一つは「体験の未完成さ」です。
たとえば、冷蔵庫は完成形に近く、残された改良余地は省エネや鮮度保持などの細部に限られているように感じられます。一方、アダルトはまだまだ完成形にはほど遠い。いくら高画質な動画を見られるようになっても、実際の性体験との差は大きい。そのギャップを埋めるために最先端技術が求められるわけです。
──今回、読んでいて、アダルトと最先端技術が結びついた途端に、その技術がどこか陳腐化したように感じることがありました。堀元さんは、そのように感じることはありますか。
堀元:全く思いません。むしろ、なぜそう感じるのかに興味があります。
──おそらく、科学技術は崇高なものであってほしいという願望がある一方で、無意識ですが私自身が「アダルト産業」「性産業」に対してあまり良い印象を抱いていないためだと思います。
堀元: 僕はむしろ、最先端技術とアダルトのような身近な分野がつながると一気にテンションが上がります。「テクノロジー×アダルト」の歴史を振り返れば、人類は常に最先端技術をアダルトに転用してきました。
たとえば、電動式バイブレーター。今では肩や腰の凝りをほぐすマッサージ器としても用いられていますが、そもそもは女性をオルガズムに導くための医療器具でした。19世紀末、女性の性欲の発露は「ヒステリー」という病とされ、膣マッサージによる治療の補助として電動式バイブレーターが利用されていたのです。
こうした事例を見ると、最先端技術は常にアダルトによって牽引されてきた、と言えるでしょう。
──一般的に「下ネタ=低俗」と見なされがちですが、著書では「頭が良くなる」と結びつけています。この逆転の発想はどのように生まれたのでしょうか。
