自傷行為をする人には共通する特徴がある(写真:yamasan/イメージマート)
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 自分で自分の身体を傷つけることを「自傷行為」と呼ぶ。刃物で手首を切るリストカットはよく知られているが、根性焼きなど自ら火傷を負う行為、摂食障害なども自傷行為に含まれる。人はなぜ自分を傷つけるのか。背景にはどんな要因があるのか。『自分を傷つけることで生きてきた 自傷から回復するための心と体の処方箋』(KADOKAWA)を上梓した形成外科医で「きずときずあとのクリニック」院長の村松英之氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──村松先生が院長を務めている「きずときずあとのクリニック」とはどのようなクリニックですか?

村松英之氏(以下、村松):名前のとおり傷跡に特化した形成外科クリニックです。形成外科医として15年以上病院に勤めている中で、傷跡を治療したいけれど、どこで治療したらいいのか分からないと悩む人がかなりいることに気がつきました。

 傷跡治療のために形成外科に行くというのは海外では一般的に知られていますが、日本では整形外科と名前が似ていて混同されがちなこともあり、あまり認知されておらず、医師でも知らない人が少なくありません。そこで、傷跡に悩んでいる人が迷わなくていいように、このように分かりやすい名前のクリニックを開業しました。

 治療をしていく中で、次第に数が増えてきたのが、リストカットをはじめとした自傷行為の傷に悩む患者さんたちです。私が病院で働いていた時には、あまりこうした患者さんたちには出会いませんでした。病院で診るのは、基本的に保険適用の範囲内の健康問題だからです。

 保険診療の対象となる傷跡とは、肥厚性瘢痕やケロイドなどの皮膚が赤く盛り上がったような傷跡です。残念ながら、その他の傷跡の見た目を良くするための治療は、保険適用の対象ではありません。

 開業後、自傷行為の傷跡が残る患者さんが増える中で、フラクショナルレーザー(レーザー照射)、切除(切って縫う)、削皮(削る)など、従来のリストカットの傷跡治療を試みてみたのですが、私自身はどこかいま一つという実感を持っていました。

 傷が消えるわけではないし、十分に患者さんの期待に応えきれていないという感覚がありました。しかも、保険診療ではないから、患者さんにそれなりに負担していただくことになる。これでいいものかと悩み、より良い方法を模索する中で、ある時「戻し植皮」という方法を見つけました。

 これは、患者さんのリストカットなどの傷跡の皮膚を薄く採取して、90度回転させて元の場所に戻す手術です。これをすると、手首に横に入っていた傷跡が縦になるので、リストカットの傷跡に見えなくなり、印象としては火傷の跡のように見えます。

 人はリストカットの傷跡には目が行くし、記憶にも残りますが、火傷のような傷跡にはそれほど関心を示さないものです。

 最初は患者さんにモニターになってもらい、安い手術代で試験的に行っていたのですが、そのうち戻し植皮を受けた患者さんたちから「人生が変わりました」といった感謝のコメントが続々と届くようになりました。半袖を着たり、電車の中でつり革を掴んだり、手首をさらしたりすることが辛くなくなるのです。

 今では確信を持ってこの方法で治療しています。